技術士第二次試験の合格に向けては、受験申込みExcelシートにおける業務経歴と業務内容詳細の記入が極めて重要になってきます。今回はこの2つのセルの記入方法について最新の知見を踏まえて解説します。
受験申込みExcelシートに記入する業務の絶対条件
現行の第二次試験の目的は、複合的なエンジニアリング問題を解決できる能力を確認することです。その判定基準として定めたのが、技術士に求められる資質能力(コンピテンシー)です。コンピテンシーは、技術士が複合的な問題を解決するのに最低限必要な資質能力です。
コンピテンシーの有無は基本的に筆記試験で判定されます。口頭試験では、複合的な問題を解決できる実務能力、技術士として必要な倫理観と継続研さんの認識が確認されます。
このうち、複合的な問題を解決した実務能力については、受験申込み時に提出する実務経験証明書が参考資料として使われます。実務経験証明書とは、受験申込みExcelシートをPDF出力した際の2枚目のペーパーのことです。口頭試験の試験官は、実務経験証明書からコンピテンシーを発揮してきた業務経歴と問題解決プロセスの実践経験を確認します。
口頭試験の試問事項「技術士としての実務能力」では、試問対象コンピテンシーが、①コミュニケーション・リーダーシップ、②評価・マネジメントとなっています。この2組の試問対象コンピテンシーの確認内容は、次のように決まっています。
①コミュニケーション・リーダーシップ:多様な関係者と明確かつ効果的に意思疎通し、多様な利害を調整できることを確認
②評価・マネジメント:問題解決能力・課題遂行能力の筆記試験において問うものに加えて、実務の中で複合的な問題についての調査・分析及び解決のための課題を遂行した経験等を確認
(「今後の技術士制度の在り方について」より)
②の確認内容は、評価・マネジメントというより問題解決のコンピテンシーに近い内容になっています。複合的な問題を解決した業務では、事前・中間・事後で結果や影響の評価を行い、多様なリソースのマネジメントも行う必要があります。そのため、評価とマネジメントの実務能力を確認すれば、問題解決の実務能力も確認できるということです。
つまり、受験申込みExcelシートに記入する業務は、コンピテンシーを発揮して複合的な問題を解決した業務であることが絶対条件になります。
コンピテンシーが必要な技術士レベル業務とは
コンピテンシーは、IEA(国際エンジニアリング連合)が定める専門職としての知識・能力(PCプロファイル)と整合するように規定しています。コンピテンシーでは8項目すべてで「業務」という言葉が出てきますが、この「業務」とは、PCプロファイルにおける「複合的な業務活動」のことです。
IEAでは「複合的な業務活動」について、5つの特性が複数又は全部含まれる業務だと定義しており、技術士レベルの業務も同様だと考えるべきです。IEAの定義を私なりに解釈すると、コンピテンシーが必要な技術士レベルの業務は、以下の5つの特性が複数含まれる業務だと言えます。
①多様なリソースのマネジメントが必要
②トレードオフ関係の要求事項の最適化
③マニュアルが無く合理的解決策を導出
④社会環境への重大な影響を未然に回避
⑤基本原理からの解決アプローチを適用
技術士レベルの業務に含まれる特性のうち、①⑤は業務遂行に必要な項目であり、全ての業務に含まれます。これに対し、②③④は個別業務に含まれる問題の特性です。
つまり、技術士レベルの業務は、②③④の特性を含む問題を解決した業務だということです。そして、その問題解決にあたっては、①⑤の特性を必ず実行していますから、5つの特性が複数含まれることになります。
コンピテンシーを発揮した経験業務の見つけ方
上記に示した技術士レベルの業務に含まれる問題の特性②③④を踏まえると、コンピテンシーを発揮して問題解決した経験業務は、以下の3パターンから見つけることができます。
パターン1:トレードオフの要求事項を最適化した業務
パターン2:マニュアルが無く合理的解決策を導出した業務
パターン3:重大な欠陥・事故を回避する工夫をした業務
パターン1のトレードオフ関係の要求事項は、多くの業務で体験しているはずです。予算は無いけど安全を確保できた、工期は短いけど予定通り完了できたなど、自分の経験を振り返ればたくさん見つかるはずです。
パターン2のマニュアルが存在しないケースも多々あるはずです。むしろ、全部マニュアル通りに解決できるケースの方が少ないと思います。また、それらしいマニュアルはあるけど、そのまま適用できないケースも、このパターンに含まれます。
パターン3の重大な結果を招く要因は、あなた自身の判断ミスだけではなく、あなたの提案を使う発注者や上司の判断ミスも含まれます。わずかな基準値オーバーを重大な結果と捉え、技術的工夫により基準値内に収めた経験がある人も多いと思います。
コンピテンシーを発揮して解決する複合的な問題とは
コンピテンシーを発揮して解決する問題は、第二次試験の目的にあるように、複合的な問題でなければなりません。この複合的な問題という言葉は、もともとIEAのPCプロファイルで使われている言葉で、コンピテンシー問題解決でもそのまま使われています。
IEAでは複合的問題について、基本原理からの解析アプローチに要する専門知識があることを前提に、次の6つの特性を一部または全部含む問題だと定義しています。
特性1:広範囲な相反要求事項の検討が必要
特性2:明白な解決策が無くリスク分析が必要
特性3:遭遇頻度が低い又は新規性の高い問題
特性4:マニュアルが無い又は適用できない問題
特性5:多様な利害関係者との共同作業が必要
特性6:構成要素の相互による影響の検討が必要
(IEA-GAPC2021よりonowith要約)
複合的な問題に含まれる特性は、技術士レベルの業務に含まれる特性と、多くの部分で重複しています。つまり、コンピテンシーを発揮した技術士レベルの業務経験は、複合的な問題を解決した業務経験だということです。
そのため、業務経歴と業務内容詳細の記入にあたっては、技術士レベルの業務経験を試験官にいち早く伝えるために、どのような問題解決パターンであったか、解決した複合的な問題にはどのような特性が含まれていたかを端的に表記する必要があります。
技術士レベルの業務を端的に表記する簡単な方法
技術士レベルの業務内容を端的に表現するには、先に示した問題解決パターンごとに、問題の特性を表すキーワードを次のように設定して、業務種別や解決内容、専門分野を表すワードと組み合わせるのが簡単で効果的です。
業務内容の最後は「計画、研究、設計、分析、解析、試験、評価、検討、策定」などの2文字で終わらせます。それに解決したことを表す「対策、解決、最適化、究明、解明、保全」などの言葉を組み合わせると、「~対策の検討」、「~計画の策定」、「~の究明と対策設計」、「~の分析と評価」などの表記となり、問題を解決した業務であることが伝わるようになります。
また、技術部門、選択科目、専門とする事項との整合が取れるように、「地盤、土質、鋼製、コンクリート、道路、河川、工事、施工、環境」などの言葉を使うようにします。文章が長くなりそうなら、「~による、~のための、~における、~を考慮した、~及び」などの言葉を使うと書きやすくなります。
業務経歴は経験年数相応の成長過程が見えるように記入
経歴10年以下の若手技術者は、無理に高度な業務経験を記入する必要はありません。試験管も、上司の下で業務を行ったことはわかるので、自分に与えられた役割と責任を負った技術的範囲を説明できるようにしておくことが重要です。
経歴20年程度の中堅技術者に対しては、まさに技術士レベルの業務を第一線で実践していると見られるので、近年の業務実績について自信を持って記入しましょう。
経歴30年超の熟練技術者は、管理職が多いので、管理や指導という表現を入れたがりますが、部下を監視していただけだと思われないように、計画・設計・評価・検討など、自分が行った業務を表す言葉と組み合わせるようにします。管理職の場合、部下の業績のパクリではないかと疑われる場合もあるので、自分の業績と部下の業績を区別することが重要です。
詳述する業務は、経歴3か経歴4とするのが良いと思います。経歴5の業務がこれからモニタリングをして評価するのなら、詳述業務に選定しない方が良いでしょう。コンピテンシーの向上過程の確認にも使われますから、経歴1や経歴2の初期段階の業務を詳述するのも避けた方が良いと思います。
問題解決ストーリーを指標とする詳述業務の選定方法
業務内容詳細は、試験官が読んだ時に複合的な問題の解決ストーリーを容易に理解できるようにする必要があります。読んで解決ストーリーを理解できない場合は、口頭で説明させられますが、そこでうまく説明できない場合は、不合格になる可能性が高くなります。
複合的な問題の解決ストーリーは、先に示したコンピテンシーを発揮した業務の問題解決3パターンと同様に分類できます。問題解決の3パターンは、問題・課題・解決内容が明確になるので、試験官も理解しやすくなります。逆に、この3パターンに該当しない業務は、解決ストーリーが試験官に理解され難いということです
そのため詳述業務は、次に示す3つの解決ストーリーから選定するべきです。
ストーリー1:トレードオフの要求事項を最適化した
ストーリー2:マニュアルが無く合理的解決策を導出した
ストーリー3:重大な欠陥・事故を回避する工夫をした
詳述業務の選定でお勧めできないのは、「難しい業務」「珍しい業務」「苦労した業務」を選ぶことです。これらの業務は、自慢話や苦労話になってしまい、肝心の複合的な問題の解決ストーリーが伝わりません。そのため、コンピテンシーを発揮した実務能力が確認できないことから、口頭試験で不合格になりやすいと言えます。
なお、通常の業務はチームで遂行しますが、口頭試験はチームの問題解決能力ではなく、あなたの問題解決能力を採点します。ですから、詳述業務の選定では、チーム内における、あなたの役割を明確に説明できる業務を選ぶようにします。
業務内容詳細には複合的な問題の解決プロセスを記入
受験申込み案内では、業務内容の詳細には「目的、立場と役割、技術的内容及び課題、技術的成果など」を記入するように留意点が示されます。しかし、現行の試験制度方針を示した「今後の技術士制度のあり方」では、業務経歴にしは「業務の内容、業務を進める上での問題や課題、技術的な提案や成果、評価及び今後の展望など」の記載を求めることとしており、実際の口頭試験でもそれらが試問されています。
口頭試験の試験官は、提出された業務内容の詳細から複合的な問題の解決プロセスを読み取り、問題解決においてコンピテンシーをどのように発揮したかを確認していきます。試験管に複合的な問題の解決で発揮したコンピテンシーを見せるには、問題の解決手順を次の7ステップで整理し、各ステップにおける思考プロセスを示すのが効果的です。
①目標設定(要求事項・責任の明確化)
②現状把握(現状の調査、データの収集)
③問題分析(現状分析、発生原因特定)
④課題設定(解決方針・方向性の設定)
⑤対策立案(比較検討、解決策の提案)
⑥結果検証(対策実施、有効性の検証)
⑦評価改善(成果の評価、改善策の提示)
この問題解決プロセスは、コンピテンシー「問題解決」と「評価」の内容に沿ったものです。この問題解決プロセスが伝われば、試験官は複合的な問題を解決した業務経験だと必ず理解してくれます。
業務内容詳細のタイトル構成と本文内容の書き方
業務内容詳細のタイトルは、口頭試験の確認内容を踏まえて、「目的、立場・役割」、「問題・課題」、「提案・成果」、「評価・展望」の4タイトルとするのが良いと考えます。
業務の目的は、記入要領で記載が指示されているため、立場・役割と合わせてタイトルで見せるようにします。また、評価・展望は成果の中に含めてもかまいませんが、口頭試験の確認項目であれば、別途タイトルを付けて書いておく方が良いと思います。
各タイトルに問題解決プロセスを下表のように配置し、本文内容には各段階での思考プロセスが見えるように書きます。
このような構成にすることで、試験官は複合的な問題の解決プロセスを確認しやすくなり、試問対象コンピテンシーを発揮したことが評価されやすくなります。
業務内容詳細は720文字しか使えず、細かな内容まで詰め込むことは不可能です。そのため、問題解決の思考プロセスが概ね伝われば良く、詳しいことは口頭試験で聞かれてから答えるようにします。
業務内容詳細における採点対象コンピテンシーの伝え方
口頭試験における「技術士としての実務能力」の採点対象は、①コミュニケーション・リーダーシップ、②評価・マネジメントです。業務内容詳細では、これらの採点対象コンピテンシーを発揮したことを伝える必要があります。その方法としては、次のようにコンピテンシーを発揮したことを業減する言葉を上手く使うことが有効です。
①コミュニケーション・リーダーシップの伝え方
業務の実施に当たっては、発注者、経営者、上司、住民、各担当の技術者・技能者、専門業者、下請・外注などの様々な関係者がいたはずです。そして、それらの関係者とコミュニケーションによるリスク調整が必要になったはずです。リスク調整には、リーダーシップが必要ですから、関連性の高いコミュニケーション・リーダーシップを組み合わせて採点しています。
業務内容の詳細では、業務上の立場・役割を明確にし、業務上の問題点を示した上で、協議・説明・調整・提案・了承など、コミュニケーションを表す言葉を使うと、どの関係者と何を調整したのかが伝わりやすくなります。
②評価・マネジメントの伝え方
どのような業務も問題解決に当たっては、自分に与えられた時間・コスト・品質などの要求事項を考えながら、良い結果を出せるように人員・機材・情報などの業務資源をマネジメントしたはずです。マネジメントは、組織を管理運営する能力ではないので、若手技術者も必ず経験しています。また、マネジメントするには、業務の各段階で評価をすることが必要です。評価は、PDCAの「C:check」を実施する能力だと捉えて良いでしょう。
業務内容の詳細では、現状や問題を分析した上で「〇〇を課題と捉えた」、業務資源を示した上で「〇〇が有効と判断して〇〇を提案した」、業務成果に対して「〇〇と評価している」、「改善していく」などの表現を使うようにします。そうすることで、あなた自身の評価能力やマネジメント能力が伝わるようになります。
おわりに
私は、技術士にふさわしい業務の意味を長年探求してきました。近年、その答えがIEA-GAPCのComplex Activities(複合的な活動)だということに気づきました。そして、自分なりに見つけた答えと、IEAの規定がほとんど同じだということを確認しています。
本稿は、IEA-GAPC2021版から技術士ふさわしい業務の意味を再確認し、技術士第二次試験合格に向けた受験申込シートの記入方法についてまとめたものです。



