技術士合格には、必須科目ⅠでA判定を取ることが絶対条件です。そのためには、試験会場で問題文を読んでから、確認コンピテンシーを踏まえた解答を構成する思考力が必要になります。今回は、問題文を読んでからA判定答案を作成していくポイントを紹介します。
必須科目Ⅰの答案作成プロセス
必須科目Ⅰでは、技術部門に関する複合的な問題の解決プロセスが問われます。問題文を読んで出題テーマを把握したら、次のようなプロセスで答案を作成していくことになります。
- 出題テーマを見つけて、複合的な問題を特定する。あるいは、複合的な問題の解決目標を設定する。
- 前文の内容を踏まえて、現状の問題点・問題要因を分析し、多面的に課題を3つ抽出する。
- 必要性や現実性などの相反事項から、国民の安全や社会経済、あるいは自然環境に最も悪影響を与える課題を、最重要課題として選定する。
- 課題は100%解決できない(リスクはゼロにできない)ので、極力100%に近づける解決策を多面的に3つ提示する。
- 3つの解決策を実施した場合の波及効果(負の影響)を示し、負の影響が大きくなり、別途対策が必要になる懸念事項(リスク)と、そうならないための管理対策を提示する。
- 上記の解決プロセスを実行する際に必要な、公衆優先原則と持続性原則に対する倫理観を示す。
設問(1)で問われるコンピテンシーと解答ポイント
設問(1)の課題抽出は、コンピテンシー「問題解決」の一番目を確認する目的です。そこに書かれている複合的な問題の明確化、調査(=現状把握)、問題発生要因・制約要因の抽出(=課題の抽出)と分析(=課題の分析)が採点項目です。
これらの項目が確認できないと、加点できないことになります。ですから、技術的内容もさることながら、このプロセスを解答に示すことが、A判定に向けて重要なポイントになります。
「問題解決」
・業務遂行上直面する複合的な問題に対して、これらの内容を明確にし、調査し、これらの背景に潜在する問題発生要因や制約要因を抽出し分析すること。
・複合的な問題に関して、相反する要求事項(必要性、機能性、技術的実現性、安全性、経済性等)、それらによって及ぼされる影響の重要度を考慮した上で、複数の選択肢を提起し、これらを踏まえた解決策を合理的に提案し、又は改善すること。
課題の抽出がマズイとそれ以降の解答も大幅に減点されるので、必須科目Ⅰでは、課題抽出の出来が合否に大きく影響してきます。課題抽出のロジックがおかしいと、どんなに立派な解決策を書いてもその有効性は認められません。
つまり、複合的な問題を解決できていないので、コンピテンシーが技術士レベルに達していないという判定になってしまいます。
設問(2)で問われるコンピテンシーと解答ポイント
設問(2)の最重要課題の選定と解決策の複数提示は、コンピテンシー「問題解決」の二番目を確認する目的です。
ですから、最重要課題の選定では、相反する要求事項と影響の大きさを考慮した選定理由を解答することが重要です。他の技術部門では、設問に「選定理由を述べよ」と書かれているケースもあります。
「問題解決」
・業務遂行上直面する複合的な問題に対して、これらの内容を明確にし、調査し、これらの背景に潜在する問題発生要因や制約要因を抽出し分析すること。
・複合的な問題に関して、相反する要求事項(必要性、機能性、技術的実現性、安全性、経済性等)、それらによって及ぼされる影響の重要度を考慮した上で、複数の選択肢を提起し、これらを踏まえた解決策を合理的に提案し、又は改善すること。
相反する要求事項とは、コンピテンシーの説明文にあるように、必要性、機能性、技術的実現性、安全性、経済性だと考えておけば良いです。建設部門では、施策や事業の必要性を述べれば、実現性・安全性・経済性との相反関係は言いやすいと思います。
最重要課題の説明では、公衆の安全や福利の確保、社会経済の持続性、自然環境の保全・負荷軽減などを優先する考えが見えるようにします。
最重要課題の選定理由がしっかりできれば、複数の解決策を違う観点から3つ挙げることは、それほど難しくないはずです。
解決策は、試験官も知っている内容であれば、詳しく説明する必要はありません。しかし、その解決策が最重要課題の解決にどのように有効なのか、あなたの考えを説明することは必要です。
解決策で高度な知識を見せたくなると思いますが、試験官が評価しているのは、解決策に対する高度な知識ではなく、その解決策を導き出した思考プロセスだということを忘れてはいけません。
設問(3)で問われるコンピテンシーと解答ポイント
設問(3)は、「評価」のコンピテンシーを確認するための設問です。必須科目Ⅰでは、「評価」のコンピテンシーとして「新たなリスク」を確認することが決まっています。
コンピテンシーを認めてもらうためには、自分が提示した解決策を実施することによって、どのようなマイナスの波及効果があり、新たな懸念事項(リスク)が発生すると評価しているかを述べる必要があります。
「評価」
・業務遂行上の各段階における結果、最終的に得られる成果やその波及効果を評価し、次段階や別の業務の改善に資すること。
波及効果には、プラスの影響とマイナスの影響の両面があり、マイナスの影響が大きくなって別途の対策が必要となる事態が新たな懸念事項です。
新たな懸案事項は、残留リスクや二次リスクと同じです。現時点ではそのレベルに留まっているけれども、しっかり監視していかなければ将来的に新たな解決策が必要となるのが、新たな懸念事項です。
解決策の有効性をどのようにマネジメントしていくかという観点から、懸念事項の対応策(リスク管理対策)を示すことが重要です。
設問(4)で問われるコンピテンシーと解答ポイント
設問(4)にある「技術者としての倫理」と「社会の持続可能性」は、コンピテンシー「技術者倫理」の一番目に定義されているのもで、技術者倫理綱領では「公衆の利益の優先」と「持続可能性の確保」の項目に該当します。
二番目、三番目の定義は、技術者倫理として重要なことではなりますが、必須科目Ⅰの確認項目の対象外となっているので、法令順守や責任範囲の明確化を書いても採点されないはずです。
「技術者倫理」
・業務遂行にあたり、公衆の安全、健康及び福利を最優先に考慮した上で、社会、文化及び環境に対する影響を予見し、地球環境の保全等、次世代にわたる社会の持続性の確保に努め、技術士としての使命、社会的地位及び職責を自覚し、倫理的に行動すること。
・業務履行上、関係法令等の制度が求めている事項を遵守すること。
・業務履行上行う決定に際して、自らの業務及び責任の範囲を明確にし、これらの責任を負うこと。
解答では公衆の安全を優先することや、自然環境や生活環境を保全することに留意して業務遂行することを必ず書く必要があります。どちらも書かれていない場合は、大幅に減点されることになるはずです。
企業や自治体の都合を優先するのではなく、地域住民の安全・安心を第一に考えて、優先順位をつけて業務を遂行することが、技術者倫理の視点として必要になります。
また、持続性の確保の視点では、自然環境の保全や環境負荷の削減に努めながら業務を遂行することが倫理要件となります。

