口頭試験の試問対象コンピテンシーと過年度の質問事例の関係を分析すると、何を確認するための質問なのかが見えてきます。最新の分析結果を基に口頭試験の質問意図と対応策について解説します。
口頭試験では最低限必要なコンピテンシーの実践力が確認される
筆記試験に合格した時点で、技術士として最低限必要なコンピテンシーはすでに確認済みです。口頭試験では確認済みのコンピテンシーを繰り返し確認することはしません。口頭試験は、技術士として最低限必要なコンピテンシーの実践力を確認する試験です。
口頭試験では、詳述業務の内容が合否判断に大きく影響します。口頭試験では、技術士としての実務力を確認するために詳述業務が使われます。あなたが提出した詳述業務は、ハイレベルの業務経験を確認するためではなく、あなたがコンピテンシーを最大限発揮して問題解決に向けて役割を果たしたかを確認するために使われます。
試験官は、詳述業務はチームで行ったという前提で読んでいます。いくら高度な解決策をアピールしても、それはチームとして導き出した解決策だろうと判断され、あなたの実践力を評価する材料にはなりません。詳述業務で重要視されるのは、チーム内でのあなたの立場と役割だと考えるべきです。
もしあなたが、チーム内の末端技術者の立場なら、意思決定者である発注者や上司が判断ミスをしないように、与えられた役割を進める中で、自分なりに判断して技術提案したということを伝えましょう。
もしあなたが、チーム内の最高責任者の立場なら、意思決定者である発注者や経営者が判断ミスをしないように、スタッフの技術提案について、自分の知識と経験を駆使して最終判断したことを伝えましょう。
口頭試験の試験官は、日ごろから複合的な問題の解決に向けて、自分に与えられた役割の中で、持てるコンピテンシーを最大限発揮して業務遂行にあたっていることを確認しています。そして、現時点のコンピテンシーは最低限レベルだとしても、将来的にはCPDでコンピテンシーのレベルを上げていくことによって、より高度な複合的な問題の解決を託せる人材かどうかを見極めようとしているのです。
受験動機や業務経歴の説明を求められる意味と対応策
口頭試験では、冒頭に受験の動機や業務経歴の説明を求められる場合があります。この場合、受験部門・科目と業務経歴の整合に疑問を持たれていると考えた方が良いでしょう。
口頭試験では、問題解決能力・課題遂行能力に関して、実務の中で複合的な問題についての調査・分析及び解決のための課題を遂行した経験を確認することになっています。つまり、口頭試験では、実務経験から問題解決・課題遂行の実践能力を確認しているのです。
この問題解決・課題遂行の実践能力は、筆記試験の概念・出題内容にも書かれている通り、技術部門・選択科目の観点から課題を抽出して解決策を提示する能力です。ですから、試験官は、受験部門・選択科目と業務経歴の整合に疑問がある場合は、本人の説明を聞いて疑いを晴らす必要があります。
平成時代の口頭試験では、「経歴と応用能力」を確認するために業務経歴や詳述業務のプレゼンを求められていました。しかし、令和の口頭試験では、「技術士としての実務能力」を確認するために、コミュニケーション・リーダーシップ、評価・マネジメントについて試問するように変わっています。
受験の動機や経歴説明を聞いたからと言って、試問対象のコンピテンシーを採点できるわけではありません。したがって、説明内容を採点しているわけではなく、受験部門・選択科目と業務経歴の整合を確認しているだけです。整合性が確認できてはじめて、本題のコンピテンシーの確認に移っていきます。
口頭試験の冒頭で、「受験の動機を聞かせてください」、「業務経歴と詳述業務を3分で説明してください」と問われる場合は、自分の成長過程と受験部門・選択科目の妥当性を意識して説明した方が良いと思います。
コミュニケーションに関する質問意図と対応策
技術士試験において問われるコミュニケーションとは、リスクコミュニケーションだと考えておくべきです。
技術士として業務を行う場合、計画・実施・検証の各段階でのリスクを把握し、発注者、他分野の専門家、企業の経営者、一般市民などの利害関係者間に正確に伝えて相互に意思疎通を図る必要があります。
口頭試験では、技術士が業務を遂行する上で、多様な関係者とコミュニケーションを取ることの必要性について質問される可能性が高くなります。これに対して、「高度な科学技術を扱う技術士は、業務で知り得た様々なリスクを、多様な利害関係者間で共有して、相互理解のもとで合意形成を図り、顧客満足向上や生産性向上、成果の品質向上を図るために必要です」と回答すれば、試験官も納得するはずです。
詳述業務はもちろん経歴票に挙げた主要業務については、どんなリスク情報を、どの利害関係者に、どういう方法でコミュニケーションしたのかを説明できるようにしておきましょう。
リーダーシップに関する質問意図と対応策
技術士に求められるリーダーシップは、多様な関係者の利害調整能力のことです。多様な関係者については、業務を行う関係者と行わない関係者の2つに分けて考えておくと良いでしょう。
業務を行う関係者とは、業務担当者や下請・外注など、業務に直接関与する人たちのことです。通常、業務はチームで行うので、詳述した業務にもあなたを含め複数の担当者がいたと思います。これらの担当者は、それぞれの自分たちの都合や思惑があるはずです。
技術士には、各担当者の都合や思惑を踏まえつつ、それぞれがどのように行動すれば良い結果が得られるかを示し、担当者間の利害を調整できる能力が求められます。
また、業務では、発注者、経営者、上司、住民、ユーザーなど、業務を行わない関係者との利害調整も必要になります。納期を最優先する発注者、コストを最優先する上司、安全性を最優先する住民との利害調整は、多くの技術者が経験していると思います。
口頭試験では、このような多様な関係者との利害を調整した経験を確認されます。経歴票の5業務を含め普段の業務では、どのような関係者と、どのような利害を、どのように調整しているのか、また良い結果を得るために工夫している点などを説明できるようにしておきましょう。
評価に関する質問意図と対応策
評価に対する質問は、業務遂行における技術的リスクを評価し、改善して次に活かす能力を確認するものです。
普段の業務におけるリスク評価は、レビューや検証という名目で実践しているはずです。技術士として業務を行う場合、事前・中間・事後の各段階における問題点や結果を評価して、次にどう進むかを判断しなければなりません。
試験官は、詳述業務の記載内容から、あなたの評価能力を確認しています。それが読み取れない場合は、詳述業務に関する技術的内容の質問が多くなり、あなたの評価能力を確認されることになります。詳述業務に関しては、「どうして妥当だと判断した理由は?」、「どういう方法で検証した?」、「他にはどんな方法を考えた?」など、技術的内容の質問を想定した準備をしておきましょう。上手く答えられない場合は、詳述業務は本人の実績ではないと判定されかねません。
また、リスクを活かすとは、良い面は標準化して活かし、悪い面は改善して活かすことです。この点に関して、口頭試験では、「詳述業務を現時点でどう評価しているか」、「成功や失敗を次にどう活かしたか」といった質問を受けます。これまでの業務を振り返り、成功や失敗が次に活きた事例を紹介できるようにしておきましょう。
マネジメントに関する質問意図と対応策
技術士に求められるマネジメントには、プロセスマネジメント、リスクマネジメント、リソースマネジメントの3つがあります。このうち、口頭試験で多く質問されるのは、プロセスマネジメントとリソースマネジメントです。リスクマネジメントは、コミュニケーションや評価に関連して質問されるので、マネジメントの確認で質問されることは少ないようです。
プロセスマネジメントに関する質問では、品質・コスト・納期・生産性の管理をどのように工夫したかが問われます。リソースマネジメントに関する質問では、要求事項を満足するために人員・設備・金銭・情報等の資源配分をどのように工夫したかが問われます。
この2つのマネジメントに関しては、経歴票の5業務を含めて日ごろの業務の中で、どのような問題があり、それを改善するためにどのように工夫したのかを端的に説明できるようにしておきましょう。
マネジメントに関しては、「普段の業務の中でマネジメントをどのように発揮していますか?」というような漠然とした質問になりがちです。「ICT技術や外部委託の活用で最適化を図っている」、「担当者の情報共有により問題点を早めに把握し、資源の配分調整を効果的に行っている」といった回答ができるようにしておきましょう。
技術者倫理に関する質問意図と対応策
技術者倫理のコンピテンシーには、公衆の利益の優先及び持続性の確保、法令・制度の遵守、責任範囲の明確化の3つの倫理的な行動規範が示されています。
公衆の利益の優先に関しては、「技術者倫理で最も重視していることは?」、「発注者や会社から倫理違反を強要されたら?」などの質問を受けます。これらの質問は、会社の利益と公衆の利益の相反関係に直面した際に、会社内で公衆の利益を最優先に考えた行動が取れるかを確認するものです。多くの受験者が聞かれているので、内部告発のあり方も含めて、しっかり回答を準備しておくべきです。また、倫理違反事例についての質問も多いので、回答を準備しておきましょう。
法令・制度の順守に関する質問事例は少ないと思います。しかし、「品質確保と環境保全が両立できない場合、どのように行動しますか?」など、品質と環境のどちらの法令・基準を順守するかといった質問事例もあるので、回答を準備しておいた方が良いでしょう。
責任範囲の明確化に関しては、その必要性を問う質問を受けます。「技術士法第46条に名称表示義務が定められているのはなぜか?」といった質問を受けるので、倫理的観点から回答できるようにしておきましょう。
継続研さんに関する質問意図と対応策
継続研さんに関する質問は、初期の能力開発(IPD)に対する取組姿勢や合格後の継続研さん(CPD)に対する基本的な理解を確認するものです。
初期能力開発(IPD)に関する質問では、修習技術者としての修習活動内容や修習技術者への指導内容が問われます。「修習技術者のための修習ガイドブック」の内容をしっかり確認して、技術士に必要なコンピテンシーをどのように高めてきたかを答えられるようにしておきましょう。
継続研さん(CPD)に関する質問では、研さんの必要性、研さんの形態、論文発表の経験、他の資格取得など確認される可能性が高くなります。技術士法第47条の2にある資質向上の責務とCPD制度の理解度が問われるので、しっかり理解しておく必要があります。また、論文発表経験が無くても、合格後に発表を考えている論文があれば、答えられるように準備しておくと良いでしょう。
令和4年度から新たなCOD制度が運用されていますが、口頭試験で新制度の内容を問われることはないと思います。新たなCPD制度では、基準CPDとして年間20時間、推奨CPDとして年間50時間の2つの目安が示されています。「合格後、年間どれくらいのCPDを目指しますか」と聞かれれば、「50時間を目標にする」と答えれば良いと思います。

