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【技術士筆記試験】必須科目で技術者倫理を確認する理由と勉強方法

筆記試験

必須科目のコンピテンシー評価項目に技術者倫理が入っている理由を考えます。技術者倫理の何が問われるの?倫理違反事例の準備は必要?Ⅲ選択科目で技術者倫理が評価項目に無いのはなぜ?そんな疑問を抱いているなら、少しは解消できるかもしれません。

 

必須科目で確認されるのは技術者倫理の社会的認識のみ

Ⅰ必須科目で評価項目となっている技術者倫理コンピテンシーは、次のように3つの項目に分かれています。

<技術者倫理コンピテンシー>

  • 業務遂行にあたり,公衆の安全,健康及び福利を最優先に考慮した上で,社会,文化及び環境に対する影響を予見し,地球環境の保全等,次世代に渡る社会の持続性の確保に努め,技術士としての使命,社会的地位及び職責を自覚し,倫理的に行動すること。
  • 業務履行上,関係法令等の制度が求めている事項を遵守すること。
  • 業務履行上行う決定に際して,自らの業務及び責任の範囲を明確にし,これらの責任を負うこと。

日本技術士会が公表した出題内容だけを見れば、この3項目全てを必須科目で評価するように受け止められますが、そうではありません。文科省の技術士分科会試験部会が公開した「試験科目別確認項目」(PDF,115KB)によれば、必須科目で確認するのは技術者倫理コンピテンシーの1番目の項目のみとなっています。2番目の法令順守や3番目の責任配の明確化は、必須科目の評価対象ではありません。

次に、必須科目で確認する技術者倫理コンピテンシーの「○」の下に書かれている「社会的認識」の意味を考えます。

社会的認識とは、「社会に関係することへの認識」という意味で、社会とは人間(公衆)の集まりですから、つまり、技術者の行動と公衆への影響についての認識ということです。

 

技術者と公衆との関わりにおける倫理行動原則

技術者倫理の問題は、技術者の対人関係において、誰の利益を優先するか、そのためにどのように行動するべきかという問題です。

技術士倫理綱領の解説」(PDF,1.5MB)の末尾に参考資料として、「対人関係と価値基準(7原則)対応表というのが示されています。この表は、倫理綱領で重視する価値基準を表わしたもので、技術者と公衆の関係では、「公衆優先原則」と「持続性原則」を重視するということです。

これらのことから、技術者倫理コンピテンシーの社会的認識とは、技術者と公衆との関わりにおいて、公衆の安全・健康を最優先にする「公衆優先原則」、環境汚染・温暖化などの影響を小さくして地球環境を保全する「持続性原則」への認識だということが理解できます。

 

筆記答案から技術者倫理の社会的認識を確認する方法

技術者倫理の社会的認識は、答案に書かれた問題解決プロセスから読み取れます。問題解決プロセスには、解決策(メリット)や派生リスク(デメリット)を書きますが、誰にとってのメリット・デメリットかを答案から読み取れば、公衆優先原則や持続性原則への認識が見えてきます。

以下に2つの答案事例を示します。どちらの答案も、担い手不足の問題に対する解決策として、ICT活用の推進を提案したものですが、解決策の提案理由と派生リスクの違いに着目してください。

【答案A】

  • 解決策:国民の安全確保のために補修工事でのICT活用を推進
  • リスク:ICT依存で現場判断力が低下し、国民の安全確保が進まない

【答案B】

  • 解決策:建設産業の若手入職者を増やすためにICT活用を推進
  • リスク:ICT導入の初期投資が増大するので、導入を控える企業が出る

解決策の提案理由から、Aは国民の安全確保の問題として捉え、Bは建設産業の若手確保の問題として捉えている違いが見えます。問題の捉え方が違うので、派生リスクの捉え方も違ってきます。Aは国民のリスク、Bは建設産業のリスクとして捉えています。

Aの答案内容からは、公衆優先原則を認識していると明らかに判断できますが、Bの答案はその認識があるのかどうか判断できません。もしかすると、Bも公衆優先原則を認識していて、建設産業の若手が増えなければ、国民の安全が守れないと考えているかもしれません。そうだとしても、それが試験官に文章で伝わらなければ、公衆優先原則の認識は無いと判断せざるを得ないということになります。

このように、解決策の派生リスクを問うことで技術者倫理は確認できますから、倫理違反事例を問う問題が出題されることは、おそらく無いでしょう。データ改ざんなどの倫理違反事例は、技術者と所属会社の関係で起こった真実性原則や正直性原則に反する行為なので、社会的認識の確認する設問は作り難いはずです。

 

Ⅲ選択科目の評価項目に技術者倫理が無い理由

Ⅰ必須科目とⅢ選択科目では、技術部門と選択科目の違いはあるものの、出題内容はほぼ同じです。しかし、Ⅰ必須科目の評価項目にある技術者倫理が、Ⅲ選択科目の評価項目にはありません。

Ⅰ必須科目の答案は筆記試験のみしか使われませんが、Ⅲ選択科目の答案は口頭試験でも使われます。Ⅲ選択科目の問題解決プロセスからも技術者倫理は読み取れますが、そこで公衆優先原則への認識に疑いがあれば、口頭試験で質問すれば良いので、筆記試験の評価項目からは外したのだと考えられます。

そもそも、必須科目で技術者倫理がアウトであれば、筆記試験は不合格になると思うので、Ⅲ選択科目で倫理を再度評価する必要も無いはずです。

 

技術者倫理が実質的な足切りポイントになる可能性も

必須科目は、択一式から記述式に変わり、足切り制度も無くなります。しかし、採点者の負担軽減を考えると、必須科目での技術者倫理の解答内容が、実質的な足切りポイントになる可能性は十分にあります。必須科目で倫理観ゼロの受験者を合格させるわけにはいかないので、選択科目の答案も一応目は通すでしょうけど、じっくり読んで真剣にABC評価することは無いでしょう。

近年発覚したエンジニアによる不祥事件には、公衆の安全・利益よりも企業の存続・利益を優先して起こったものが多く、技術者倫理のあり方が改めて注目されています。グローバル経済において、エンジニアによる不祥事件は、技術士の国際信用性を失墜することにもつながります。技術士の国際通用性の確保を進めようとしている中で、技術者倫理の評価のあり方は、文科省も重要視しているでしょうし、試験官の意識も高いように思います。そのため、合否判断における技術者倫理のウェイトは、かなり大きいと考えます。

 

必須科目の技術者倫理対策の勉強方法

技術士倫理綱領の解説」(PDF,1.5MB)は、熟読した方が良いと思います。早めに入手して理解を深めておくことをお勧めします。この理解度により、筆記試験答案や業務経歴票の業務詳細の記載内容にも差が出てきます。

解決策の派生リスクは、論文の最後の方に書きます。最後に書いた解決策のリスクから、「この人は公衆より企業利益を優先して行動するのか」と思われてしまえば、それまでほぼ完璧な内容であっても、これだけで不合格にされることも考えられます。

そうならないために、倫理を意識した書き方の練習は必要だと思います。書き方のクセはなかなか直らないので、本番では無意識に企業組織優先の論理展開になってしまう可能性があります。

働き方改革や技術革新は、誰が抱える問題の解決に有効なのかを考えてみてください。必須科目の出題内容には、「現代社会が抱えている様々な問題」とあります。解決すべきは、あなたが所属する会社組織や業界が抱えている問題でないのです。

 

まとめ

必須科目で確認されることは、公衆優先原則と持続性原則への認識です。

技術者倫理は、答案の問題解決プロセスから読み取れるので、倫理違反事例は問われません。

国民の安全より企業利益を優先する内容を書くと、それだけで一発不合格とされるはずです。

Ⅲ選択科目で技術者倫理が評価項目に無いのは、口頭試験で確認できるからです。

必須科目で足切りはなくなりましたが、技術者倫理の評価が実質的な足切りポイントになる可能性は高いと思います。

勉強方法は、技術者倫理綱領の解説を熟読すること、倫理を意識した書き方のクセをつけることです。

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