2019年度の技術士筆記試験が終了し、記述式に変更された必須科目の出題型式が見えたので感想を書いておきます。問題文は一定パターンで作成され、事前に公表されていたコンピテンシーの確認項目通りの設問になっているのが印象的です。
必須科目は2題ともほぼ同じ設問文
2019年の必須科目(建設部門)の問題文は次のようなものでした。赤文字箇所は、Ⅰ-1、Ⅰ-2ともまったく同じです。
Ⅰ-1 我が国の人口は2010年頃をピークに減少に転じており、今後もその傾向の継続により働き手の減少が続くことが予想される中で、その減少を上回る生産性の向上等により、我が国の成長力を高めるとともに、新たな需要を掘り起こし、経済成長を続けていくことが求められている。
こうした状況下で、社会資本整備における一連のプロセスを担う建設分野においても生産性の向上が必要不可欠となっていることを踏まえて、以下の問いに答えよ。
(1)建設分野における生産性の向上に関して、技術者としての立場で多面的な観点から課題を抽出し分析せよ。
(2)(1)で抽出した課題のうち最も重要と考える課題を1つ挙げ、その課題に対する複数の解決策を示せ。
(3)(2)で提示した解決策に共通して新たに生じうるリスクとそれへの対策について述べよ。
(4)(1)~(3)を業務として遂行するに当たり必要となる要件を、技術者としての倫理、社会の持続可能性の観点から述べよ。
Ⅰ-2 我が国は、暴風、豪雨、豪雪、洪水、地震、津波、噴火その他の異常な自然現象に起因する自然災害に繰り返しさいなまれてきた。自然災害への対策については、南海トラフ地震、首都直下地震等が遠くない将来に発生する可能性が高まっていることや、気候変動の影響等により水災害、土砂災害が多発していることから、その重要性がますます高まっている。
こうした状況下で、「強さ」と「しなやかさ」を持った安全・安心な国土・地域・経済 社会の構築に向けた「国土強靱化」(ナショナル・レジリエンス)を推進していく必要があることを踏まえて、以下の問いに答えよ。
(1) ハード整備の想定を超える大規模な自然災害に対して安全・安心な国土・地域・経済社会を構築するために、技術者としての立場で多面的な観点から課題を抽出し分析せよ。
(2)(1)で抽出した課題のうち最も重要と考える課題を1つ挙げ、その課題に対する複数の解決策を示せ。
(3)(2)で提示した解決策に共通して新たに生じうるリスクとそれへの対策について述べよ。
(4)(1)~(3)を業務として遂行するに当たり必要となる要件を、技術者としての倫理、社会の持続可能性の観点から述べよ。
必須科目の出題パターン
必須科目の2題は、一定のパターンで問題文が作られています。
まず問題文の前文に「社会背景、国の目標」が書かれています。設問(1)の文頭には、解答に当たっての「条件」が与えられています。その後の「技術者としての立場で・・・」からは、Ⅰ-1とⅠ-2はまったく同じ設問です。
先ほど示したⅠ-1とⅠ-2の問題文の作成パターンは、次のように整理できます。
【Ⅰ-1】
- 社会背景:働き手の減少
- 国の目標:経済成長の継続
- 付与条件:建設分野の生産性向上
- 設問(1):多面的に課題を抽出し分析
- 設問(2):最重要課題を1つ挙げ、複数の解決策を提示
- 設問(3):解決策に共通して生じる新たなリスクと対策
- 設問(4):業務遂行における技術者倫理、社会持続性の要件
【Ⅰ-2】
- 社会背景:大規模地震の逼迫、気象災害の多発化
- 国の目標:国土強靭化
- 付与条件:ハード整備想定外の大規模自然災害
- 設問(1):多面的に課題を抽出し分析
- 設問(2):最重要課題を1つ挙げ、複数の解決策を提示
- 設問(3):解決策に共通して生じる新たなリスクと対策
- 設問(4):業務遂行における技術者倫理、社会持続性の要件
コンピテンシー確認事項に沿った4つの設問

(1)~(4)の4つの設問は、技術士分科会試験部会が公開していた「試験科目別確認項目」(PDF,115KB)のうち、問題解決(課題抽出、方策提起)、評価(新たなリスク)、技術者倫理(社会的認識)に沿ったものです。
設問(1)が課題抽出、設問(2)が方策提起を問われていますから、これらの解答内容で問題解決能力が判定されます。
設問(3)は新たなリスクが問われています。この解答内容で評価能力が判定されます。
設問(4)は技術者倫理の社会的認識が問われています。社会的認識とは、公衆優先原則と持続性原則のことです。設問文で「技術者としての倫理、社会の持続可能性」とあるので、これら2つの原則の認識が、解答内容から判断されます。ちなみに、「業務として遂行するに当たり必要となる要件」とは、「業務遂行する上で倫理的に重要な点」という意味です。
問題解決プロセスを無視した解答は不合格の可能性大
今年度の必須科目の出題型式では、次のような問題解決プロセスを踏まえた解答が必要になります。
これは、平成25年度からのⅢ選択科目がそうであったように、技術士の問題解決能力や評価能力をIEA-PC並みに評価するには、IEA-PCが想定する問題解決プロセスを踏まえる必要があるからです。
そもそも、複合的な問題は、適切なプロセスを踏まえなければ解決できない問題なので、問題解決プロセスを無視した解答は、技術士の能力が無いことをアピールしているようなものです。
複合的な問題には、複数要因が存在するので、課題も複数存在し、解決悪も複数考えられます。そこで、通常はリスク分析して最優先課題を抽出し、複数の解決策を比較検討して最適案を提案する流れになります。
ですから、適切な問題解決プロセスを踏まえれば、今回の設問のように複数の比較検討案の提示までを求めた問いにも答えられるはずです。
つまり、必須科目で評価対象となっているのは、課題や解決策が正しいかどうかではなく、課題抽出や解決策導出のプロセスが正しいかどうかだということです。プロセス重視がより明確になったので、記述式に変えて良かったのではないかと思います。
まとめ
取り急ぎ、今年度から記述式に変更になった必須科目の問題文について感想を書いてみました。試験官が評価しやすい出題形式になったので、答案のタイトル付けも設問に合わせた方が、コミュニケーション能力の評価も上がるように思います。
技術者倫理の確認方法については少し興味がありましたが、設問(4)を設けてズバリ問われるので、受験者も対応しやすいと思います。ただし、下の記事にも書いたように、技術者倫理の解答内容が、実質的な足切りポイントになる可能性は高いと感じました。


