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何が変わったのか?国際通用性確保に向けて改正された技術士筆記試験

筆記試験

新制度の技術士筆記試験が終わりました。国際通用性確保を目指して改正された筆記試験は、何を問いかけ、何を確認しようとしていたのか。そして、来年度の筆記試験に向けて、どのように対策を進めれば良いかを考えてみたいと思います。

出題型式がフォーマット化された

新制度試験の大きな特徴として、出題型式のフォーマット化が挙げられます。各試験問題のフォーマットをまとめると以下のようになり、ほとんどの技術部門、選択科目で同一の出題形式となりました。

 

<Ⅰ必須科目の出題フォーマット>

  • 前文:社会的背景、ニーズ・目標
  • 設問(1):技術部門的テーマ、多面的に課題を抽出し分析
  • 設問(2):最重要課題を1つ挙げ、複数の解決策を提示
  • 設問(3):解決策に共通して生じる新たなリスクと対策
  • 設問(4):業務遂行における技術者倫理、社会持続性の要件

 

<Ⅱ-1選択科目の出題フォーマット>

  • 設問:選択科目的テーマの定義、内容、種類、特徴、原因、機構、対策、方法、課題、留意点

 

<Ⅱ-2選択科目の出題フォーマット>

  • 前文:業務条件の付与、解答者の立場を仮定
  • 設問(1):調査、検討すべき事項とその内容
  • 設問(2):留意点、工夫点を含めた業務手順
  • 設問(3):効率的・効果的に進めるための関係者調整方策

 

<Ⅲ選択科目の出題フォーマット>

  • 前文:社会的背景、ニーズ・目標
  • 設問(1):選択科目的テーマ、多面的に課題を抽出し分析
  • 設問(2):最重要課題を1つ挙げ、複数の解決策を提示
  • 設問(3):解決策に共通して生じる新たなリスクと対策

 

出題型式のフォーマット化により、過去問勉強では対応できない問題が多く出題されました。そのため、これまでの受験ノウハウが通用せず、古い参考書やネット情報に頼りきっていた人は、かなり戸惑ったと思います。

 

コンピテンシー確認項目に沿った設問が設定された

出題型式のフォーマット化により、Ⅰ必須科目では4つの設問が設けられ、Ⅱ-2選択科目とⅢ選択科目では3つの設問が設けられました。これらの設問は、全て文科省の技術士分科会試験部会が公開した「試験科目別確認項目」(PDF,115KB)に沿った内容になっています。

Ⅰ必須科目とⅢ選択科目は、問題解決と評価が同じなので設問(1)~(3)の内容がほぼ同じになっています。両者を分けているのは、設問(1)の文頭に書かれている出題テーマが、技術部門か選択科目かの違いだけです。

Ⅰ必須科目の設問(4)は、上表にあるように技術者倫理の社会的認識、すなわち公衆優先原則、持続性原則を認識して業務を遂行できるかを試す設問です。なお、Ⅲ選択科目で技術者倫理が問われないのは、Ⅰ必須科目と同じ解答を求めても意味がないこと、Ⅲは口頭試験でも確認できることが理由と考えられます。

Ⅱ-2選択科目の設問(1)「調査、検討すべき事項とその内容」は、専門的学識の業務理解レベルを確認する設問です。具体的な業務遂行に必要な知識ということで、Ⅱ-1選択科目の基本理解レベルとは違うという置付けになっています。

Ⅱ-2選択科目の設問(2)業務遂行手順は、過去問でも問われていたので、大きな変化ではありません。しかし、設問(3)関係者調整は、技術士コンピテンシーに合わせて設定された設問で、過去問ではあまり問われてはいなかったと思います。新制度試験では、利害関係者との調整能力を重要視されているので、設問(3)の出来がⅡ-2の採点に大きく影響するかもしれません。

 

知識偏重からプロセス重視に変わった

全体を通してみると、技術士の国際通用性を確保するために、知識偏重の試験内容から問題解決や業務遂行のプロセスが重視される試験に変わったと言えそうです。

これまでの試験は、「課題を挙げ解決策を示せ」というような設問が多く、「課題はこれ、解決策はこれ」と断定的な解答を求めていたように思います。これまでは、高等の専門的応用能力として創意工夫や独創性を見せれば、それでも良かったのでしょう。

ところが、技術士の資質能力を国際的なエンジニア資格に合わせようとすると、複合的な問題を解決できる能力を求めざるを得なくなりました。複合的な問題には、課題や解決策が複数存在するので、「課題はこれ、解決策はこれ」と断定的な解答を求めてしまうと、その能力が確認できなくなります。

Ⅰ必須科目とⅢ選択科目の設問(2)では、いくつかある課題の中から最重要課題を1つを挙げて、複数の解決策を提示するように求められています。これも、複合的な問題の解決能力を試す試験に変わった証といえるでしょう。

また、1つの課題に複数の解決策を提示することは、比較検討案を複数提示するのと同じことで、最終的な解決策を複数挙げることではありません。これまでの試験では最適案を1つ解答すれば良かったのが、これからは複数案を解答しなければいけないということです。

こうなったのも、複合的な問題の解決策は時代や環境で有効性が変化するという前提があるからです。複数の解決策を提示した後、共通して生じる新たなリスクと対策を問うようにしたのも、有効性の変化に対するリスク分析・評価能力を試すためでしょう。

 

もはや白書学習は大きな意味を持たなくなった

H24以前までの必須科目では、白書学習を推奨されることが多かったのですが、今後は白書に書かれた解決策を書いても、高評価につながらなくなります。そもそも白書は、国が取組んでいる解決策集で、問題解決プロセス集ではありません。例えば、白書にはAI活用の事例はたくさん出ていますが、AI活用を導く解決プロセスは書かれていないはずです。また、白書にはAI活用によるリスク評価やリスク対策も書かれていません。

白書学習は、基本知識を習得するのに有効な教材であることは間違いありません。技術士なら白書を読むべきですし、そこで得た知識をを技術士活動に活かすことは大切なことです。しかし、技術士コンピテンシーのコアとなる問題解決能力や評価能力は、適切なプロセスを踏まえなければ示すことはできない能力ですから、それを白書に求めても意味がないのです。

今後は、白書からⅠ必須科目の出題テーマを予想することはできても、白書の内容から合格答案を作成することはできないと考えた方が良いでしょう。

 

来年度から答案のフォーマット化が進む

問題型式がフォーマット化されたことにより、答案のフォーマット化も進むでしょう。出題型式は、来年度も変わらないと思いますから、今年度の問題に合わせて模範解答のフォーマットが作られ、ネット上などで拡散していくものと思います。

おそらく私も、合格答案フォーマットを作ってセンテンスやフレーズを埋める受験指導を勧めていくでしょう。技術士試験に効率よく合格したいわけですから、それで良いと思いますし、白書のコピペ答案より、問題解決プロセスを示す答案が増えた方が、技術士のレベルは上がると思います。

ただし、様々な答案フォーマットが拡散することで、情報オーバーロードになることも考えられます。そうならないためには、技術士コンピテンシーの本質を理解し、日常業務で実践を積み、何が正しいのかを見極める能力も磨く必要があります。

そして、正しい答案フォーマットを見極められるようになった人たちが、技術士筆記試験の合格者になるのだと思います。

 

まとめ

国際通用性の確保に向けて、技術士筆記試験はプロセス重視の試験問題に変わり、問題型式がフォーマット化されて技術部門や選択科目間で統一されました。そのため、これまで主流だった過去問学習や白書学習が通用せず、必ずしも有効な対策ではなくなりました。

一方で、来年度以降の出題型式が予想しやすくなり、ネット上に合格答案のフォーマットが拡散することが予想されます。今後は情報オーバーロードで本質を見失わないよう、正しい答案フォーマットを見極める能力も必要になると思われます。

私自身、まだ一部の試験問題しか確認していませんが、これから公表される全ての試験問題を分析してみようと思います。そして、本サイトを訪れてくれた多くの人が、技術士に必要な真の能力を習得し、早期にに合格できるよういなるには、どうすれば良いのかを考えていきたいと思います。

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