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問題解決7ステップで技術士力を伝える選択科目Ⅲの解答方法

筆記試験

試験制度の変更に伴い、採点方法もコンピテンシー確認型に変わったと考えます。筆記試験の採点方法を推察してみると、選択科目Ⅲでは問題解決7ステップによる解答方法が有効と思われるので、令和元年道路Ⅲ-2の解答例を使って紹介していきます。

 

選択科目Ⅲで確認される3つの能力

選択科目Ⅲの問題文の設問(1)~(3)は、全て技術士分科会試験部会が公開した「試験科目別確認項目」に対応して作られています。下の記事に対応表を載せていますので、参考にしてください。

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3つの設問で確認される能力は、設問(1)が課題抽出能力、設問(2)が方策提起能力、設問(3)がリスク評価能力です。この3つの能力の内容は、コンピテンシーの説明文に次のように書かれています。

  • 課題抽出能力:業務遂行上直面する複合的な問題に対して、これらの内容を明確にし、調査し、これらの背景に潜在する問題発生要因や制約要因を抽出し分析すること。
  • 方策提起能力:複合的な問題に関して、相反する要求事項(必要性、機能性、技術的実現性、安全性、経済性等)、それらによって及ぼされる影響の重要度を考慮した上で、複数の選択肢を提起し、これらを踏まえた解決策を合理的に提案し、又は改善すること。
  • リスク評価能力:業務遂行上の各段階における結果、最終的に得られる成果やその波及効果を評価し、次段階や別の業務の改善に資すること。

着目すべきはアンダーラインの箇所で、試験官も解答内容からこれらの点について確認するはずです。

 

試験管が3つ能力を確認するポイント

これらの内容と3つの設問内容を踏まえると、試験官が3つの能力を確認するポイントは、以下のように考えられます。

 

設問(1)の確認ポイント(課題抽出能力)

  • 複合的な問題の内容を明確しているか
  • 現状を多面的に調査(把握)しているか
  • 発生要因や制約要因を分析して課題を抽出しているか

設問(2)の確認ポイント(方策提起能力)

  • 相反する要求事項と及ぼす影響度から重要課題を抽出しているか
  • 重要課題に対して複数の選択肢を提起できているか

設問(3)の確認ポイント(リスク評価能力)

  • 波及効果として新たに発生するリスクを評価しているか
  • リスクを具現化させないための対策を評価しているか

 

これらの確認ポイントが、答案に的確に書かれていれば、よほど間違った知識や意味不明な日本語が書かれていない限り、A判定の60%以上はクリアーできるはずです。

もし私が採点者なら、知識や日本語に大きな問題が無ければ80%の評価点は付けると思います。逆に各設問の確認ポイントが半分程度しか書かれていなければ、評価点は50%になりB判定、解答していない設問が一つでもあれば40%以下のC判定にするでしょう。

 

3つの設問が要求する問題解決の7ステップ

上記の確認ポイントは7項目ありますが、これらは次のような問題解決の7ステップと同じ内容です。つまり、3つの設問は、この7ステップを踏んで問題を解決できる能力を要求しているということになります。

 

<問題解決7ステップ>

①問題特定→②現状把握→③現状分析→④課題抽出→⑤対策提案→⑥リスク評価→⑦リスク対応

 

これらの7ステップを各設問の解答にはめるとすると、次のようになり、試験官の確認ポイントを満たすことができるようになります。

 

<各設問の解答に問題解決7ステップのはめ方>

設問(1)の解答:①問題特定、②現状把握、③現状分析

設問(2)の解答:④課題抽出、⑤対策提案

設問(3)の解答:⑥リスク評価、⑦リスク対応

 

この問題解決7ステップは、令和の試験で初めて問われたものではなく、旧制度のⅢ選択科目でも同じように問われていました。そのことは、以下の記事でも少し触れています。

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令和元年道路Ⅲ-2の問題文

これから、令和元年の道路Ⅲ-2の問題を使って問題解決7ステップによる解答方法を説明していきます。問題文は以下の通りですが、(1)~(3)の設問はどの科目も同じで定型化されています。1つの重要課題に対して複数の解決策を提示し、それらに共通するリスクを解答しなければなりませんから、過去問の解答ノウハウだけでは対応しきれない内容だと思います。

 

<令和元年道路Ⅲ-2の問題文>

橋梁、トンネル等の道路構造物については、平成25年から平成26年にかけての道路法、同施行令及び同施行規則の改正を経て、平成26年度に策定された定期点検要領等 に沿って、各道路管理者において点検が実施されており、平成30年度で一巡目の定期点検が完了したところである。道路構造物のメンテナンスを担当する技術者として、以下の問いに答えよ。 

(1)地方公共団体が、二巡目となる道路橋の定期点検を実施するに当たって、技術者としての立場で多面的な観点から課題を抽出し分析せよ。 

(2)(1)で抽出した課題のうち最も重要と考える課題を1つ挙げ、その課題に対する複数の解決策を示せ。 

(3)(2)で提示した解決策に共通して新たに生じうるリスクとそれへの対策について述べよ。 

 

選択科目Ⅲの解答に必要な専門知識レベル

問題のテーマである地方自治体の橋梁点検について、少し説明しておきます。

今回、解答例を作成するのに必要だった専門知識ですが、橋梁点検実務者から見れば、かなり低レベルに思う内容かもしれません。しかし、この程度の知識があれば、A判定の答案は書けるということです。

 

<地方自治体における橋梁定期点検の予備知識>

道路橋は地域の交通基盤ですから、老朽化で突然通れなくなれば、通勤通学ができない、緊急車輌が来ない、災害救援活動ができないなど、いろいろな問題が起こります。そうならないように、老朽化の状況を把握して修繕時期を見極めるため、5年毎に定期点検を近接目視点検することが道路法改正で法的に義務化されました。

定期点検対象の2m以上の橋梁は全国に73万橋あり、その9割に当たる66万橋が地方自治体管理です。地方自治体の橋梁は小規模なものが多く、ほとんど利用されていない橋もたくさんあります。

この定期点検は、手の届くところまで近づいて詳しく調べる近接目視点検と呼ばれるもので、人手とコストがかかる方法です。また、点検と同時に健全度を診断することになっていて、健全度はⅠ~Ⅳの4段階で評価しなければなりません。Ⅰは健全、Ⅱは予防保全段階、Ⅲは早期措置段階、Ⅳは緊急措置段階です。老朽化が著しくて通行規制が必要な橋梁は、Ⅳと判定されます。

一巡目の点検が終わって、アンケート調査などから、人材難と財政難を抱える自治体では、近接目視点検が大きな負担になることがわかりました。また、自治体は財政難から1割程度しか修繕工事に着手できておらず、通行規制が必要になる橋梁が今後急増することが予想されます。

 

問題解決7ステップの思考プロセス

問題をじっくり読んだら、問題解決の7ステップを次のように考えていきます。

解答には、先に示した予備知識程度は必要と思いますが、重要なことは知識の有無ではなく、各ステップにおけるロジックだということを理解してください。

 

ステップ1:複合的な問題の特定

問題文を読んで、まずやるべきことは問題解決の目標を見つけることです。

目標は、設問(1)の前段に書かれている「橋梁の二巡目点検の実施」です。これに対して、現状は近接目視点検の負担が大きく、二巡目点検を全橋で実施できないかもしれないということです。目標と現状のギャップが、解決すべき複合的な問題ですから、自治体が二巡目点検をできない場合に起こり得る問題を考えれば良いわけです。

点検できなくなれば、老朽化が進行して橋を通行できない事態が起こり得ます。そのため、解決すべき複合的な問題は、「地域交通基盤の機能不全」と特定することとしました。

以降、この問題の解決ステップを考えていくようにします。

 

ステップ2:多面的に現状を把握

多面的な視点について、私は「人・物・金・掟・技」から考えることが多いです。そうすれば、人材(人)、施設(物)、財源(金)、制度(掟)、技術(技)などのように、違う観点から問題点や課題を連想することができるようになります。

今回は、自治体の橋梁点検の現状を人・物・金の観点から、次のように考えてみました。

現状1:地方自治体では、点検や診断する技術者(人)が不足している。

現状2:地方自治体の橋梁(物)は、修繕が進んでおらず機能不全の橋梁が急増する。

現状3:地方自治体は、財政難(金)でメンテナンスサイクルへの予算の目処が立たない。

 

ステップ3:現状を分析して課題を抽出

現状を人・物・金の視点から把握したので、この3つの視点から分析して課題を3つ列記します。

課題1:膨大な橋梁数を少ない技術者(人)で点検しなければならないので、点検の省力化が課題となります。

課題2:措置を講じなければ通行者の安全が確保されず、コンクリート剥落などで第三者に被害が及ぶことになるので、健全度Ⅲ・Ⅳ橋梁の早期修繕が課題となります。

課題3:限られた財源でメンテナンスサイクルを回さなければいけないので、点検→診断→措置→記録の各業務の効率化が課題となります。

 

ステップ4:最も重要と考える課題の選定

私は3つの課題の内、課題3に挙げた自治体におけるメンテナンスサイクルの業務効率化を最重要課題としました。

各自治体は、予算規模や管理する橋梁数も違います。橋梁が存在する道路の重要度や交通量も、地域の事情によって大きく違うはずです。それぞれ事情が違う橋梁において、全て一律にメンテナンスサイクルを回そうとすることが、自治体の点検負担を大きくしているのではないかと考えたわけです。

ここで大切なことは、最重要課題として選んだ理由や考えを示すことです。

 

ステップ5:最重要課題に対する解決案の提示

コンピテンシーの説明文にもあるように、複合的な問題には相反する要求事項が含まれています。つまり、最重要課題はトレードオフの解決だということです。ステップ4までの流れをまとめると、最重要課題は、交通基盤機能と維持コストのトレードオフ解決だと言えます。

自治体の維持コストを増やすことはできないので、解決策としては交通基盤を減らすか、維持管理方法を改善してコストを減らすしかありません。今回は、その解決案を次のように3つ提示してみました。

解決策1:地域の道路利用状況に応じて、既存橋梁の統廃合を行い、修繕費や予防保全費の削減を行う。

解決策2:点検結果は、国土交通省が構築するインフラデータプラットフォームに集約し、自治体の管理コストを軽減する。

解決策3:地方自治体における点検診断精度の確保、ICT・AI等の最新技術の活用に向け、国や学協会による点検診断の派遣制度や代行制度を拡充する。

 

ステップ6:解決策に共通するリスク評価

3つの解決策に共通しているのは、自治体の管理労力を減らして維持コストを削減するということです。そこで、解決策に共通して発生するリスクとしては、自治体の管理労力を減らすことによるリスクを考えることにします。

自治体の管理労力を減らすということは、自治体の管理能力が低下するということにつながります。自治体が地域にある橋梁施設を適正に管理できなくなった場合、地域住民が被る不利益が共通するリスクになります。

点検は5年に一度行えば良いわけではなく、日常点検もあれば、災害後の緊急点検もあります。その時、自治体の管理能力が低下していれば、それらの点検を適正に行えないリスクが発生します。さらに、管理能力の低下の度合いは各自治体で違うので、課題のメンテナンスサイクルの構築において、自治体間で格差が生じるリスクもあります。

 

ステップ7:発生するリスクへの対応策

リスク対応としては、自治体の管理能力の低下を防ぐということになります。そのための対策としては、教育訓練と実戦経験により管理能力を維持向上するしかありません。

ですから、それらの機会や場を作ることが挙げられます。国や研究機関、大手民間企業などと連携して、自治体職員が点検診断技術の実践的教育訓練を受けることができる制度を拡充していくことが挙げられます。さらに、近隣自治体が連携して、格差拡大を防止することなどが考えられます。

 

問題解決7ステップを踏まえた解答例

以上の思考プロセスを経て作成した解答例を示します。

アウトラインは、設問に合わせた3つの大タイトルと、問題解決7ステップに合わせた7つの小タイトルで構成し、配分は1つの大タイトルで概ね1枚を目安としました。このようにすれば、全ての設問に対して均等に答えていることが伝わると思います。

 

<令和元年道路Ⅲ-2の解答例>

1.地方自治体の道路橋定期点検の現状と課題

 1.1 解決すべき複合的な問題の特定

 一巡目の橋梁定期点検が完了し、多くの自治体では近接目視点検が大きな負担になっていることが判明した。各自治体が、二巡目点検を適切に実施しなければ、通行規制をせざるを得ない橋梁が増え、地域の人流や物流に多大な悪影響が及ぶ可能性がある。

 よって、地域交通基盤の機能不全を解決すべき問題と捉え、二巡目点検の課題を抽出する必要がある。

 1.2 橋梁定期点検に対する地方自治体の現状

 橋梁定期点検における地方自治体の現状は、一巡目点検結果およびアンケート結果等から、以下の3点に整理できる。

 ①地方自治体は66万橋を管理するが、点検診断に関わる技術職員が不足している。

 ②措置が必要な橋梁の修繕着手率が1割程度しかなく、機能低下する橋梁が今後急速に増加する。

 ③財政難により、点検→診断→措置→記録の業務サイクルへの予算の目処が立たない。

 1.3 二巡目点検実施に向けた課題抽出

 上記の現状を踏まえ、地方自治体が二巡目点検を実施するための課題を3項目抽出する。

 課題1:膨大な橋梁数を少ない技術者で点検するためには、点検作業の省力化が課題となる。

 課題2:利用者の安全確保、第三者被害の防止のため、健全性評価Ⅲ・Ⅳ橋梁の早期対策が課題となる。

 課題3:限られた予算で確実に点検するためには、メンテナンスサイクル業務の効率化が課題となる。

2.最も重要と考える課題と解決策

 2.1 最も重要と考える課題

 最重要課題は、次の理由から、課題3のメンテナンスサイクル業務の効率化と考える。

 地方自治体には小規模な橋梁が多く、交通需要がほとんど無い橋梁も多い。また、災害発生時の避難路や緊急輸送路として有効性が低い橋梁も多数存在する。

 現状は、このような橋梁を全て全国一律に点検しており、自治体の負担増の原因にもなっている。

 したがって、地域交通基盤を確実に維持していくためには、地域の実情に応じてメンテナンスサイクル業務を効率化することが、最も重要な課題と言える。

 2.2 3つの解決策の提示

 最重要課題を交通基盤機能と維持コストのトレードオフ解決と捉え、3つの解決策を提示する。

 解決策1:地域の道路利用状況に応じて、既存橋梁の集約化や廃道など、管理施設の統廃合を行い、修繕費や予防保全費の削減を行う。

 解決策2:点検結果は、国土交通省が構築するインフラデータプラットフォームに集約し、自治体の管理コストを軽減する。

 解決策3:地方自治体における点検診断精度の確保、ICT・AI等の最新技術の活用に向け、国や学協会による点検診断の派遣制度や代行制度を拡充する。

3.解決策に共通して生じうるリスクと対応策

 3.1 解決策に共通して生じうるリスク

 提示した解決策は、いずれも橋梁定期点検における自治体の労力面を減らすことで、維持コストを削減するというものである。

 そのため、自治体職員の点検診断技術の低下を招き、日常点検や災害後の緊急点検が適正に行えないリスクが生じうる。

 また、これらの解決策を各自治体の裁量で実施する場合、メンテナンスサイクルの構築における地域間格差が生じるリスクがある。

 3.2 リスクへの対応策

 リスク対応としては、自治体の管理能力の低下を防ぐため、教育訓練と実務経験を積む機会を確保することが必要となる。

 その方策としては、国や学協会研究機関、大手民間企業などが連携して、自治体職員や地域の民間企業が、点検診断技術を取得できる制度を構築し、計画的に実践することが挙げられる。

 また、解決策の実施による地域間格差を発生させないためには、近隣自治体が連携して施策を計画的に進めていくことも必要である。

(以上)

 

おわりに

記述式問題に正解は無いので、この内容を書いても満点は付かないでしょう。しかし、地方自治体のインフラが急速に老朽化していく現状を踏まえ、インフラメンテナンスを回すための課題解決を示したことは、技術士コンピテンシーの中で最も重要な問題解決能力と評価能力を高く評価されるはずです。

選択科目Ⅲで80%の評価が得られれば、仮にⅡで40%しかできなくても、合計で60%なので合格ラインに届きます。Ⅲが40%でⅡが80%でも同じことですが、どちらが技術士にふさわしいかと問われれば、おそらく多くの試験官はⅢの得点が高い方を選ぶと思います。

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