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技術士筆記試験対策で必須科目がA判定になる解答方法

筆記試験

どうすれば必須科目でA判定答案が書けるのか、令和元年の建設部門Ⅰ-1問題を使って説明したいと思います。問題文から要求事項を把握し、問題解決プロセスを示し、課題遂行の倫理的要件を示せば必ずA判定になります。答案作成の思考プロセスと解答例を示したので、ぜひ読んでみてください。

問題文から要求事項を把握する

令和元年の建設部門必須科目Ⅰ-1のテーマは生産性向上でした。

<令和元年度 建設部門必須科目Ⅰ-1>
 我が国の人口は2010年頃をピークに減少に転じており、今後もその傾向の継続により働き手の減少が続くことが予想される中で、その減少を上回る生産性の向上等により、 我が国の成長力を高めるとともに、新たな需要を掘り起こし、経済成長を続けていくことが求められている。
 こうした状況下で、社会資本整備における一連のプロセスを担う建設分野においても生産性の向上が必要不可欠となっていることを踏まえて、以下の問いに答えよ。
(1)建設分野における生産性の向上に関して、技術者としての立場で多面的な観点から課題を抽出し分析せよ。
(2)(1)で抽出した課題のうち最も重要と考える課題を1つ挙げ、その課題に対する複数の解決策を示せ。
(3)(2)で提示した解決策に共通して新たに生じうるリスクとそれへの対策について述べよ。
(4)(1)~(3)を業務として遂行するに当たり必要となる要件を、技術者としての倫理、社会の持続可能性の観点から述べよ。

国交省は、2016年(H28)を生産性革命元年として位置づけ、生産性向上による成長力強化という内閣の方針に基づいて、生産性革命政策をいろいろ打ち出しました。

社会の生産性向上を支えるインフラ政策では、「賢く使う」とか「ストック効果の最大化」などの言葉がよく使われるようになりました。そして、建設現場の生産性向上政策として打ち出されたのがi-Constructionです。さらに、ビッグデータ活用という言葉も、この頃からよく耳にするようになりました。

問題の前文は、まさにこのような背景を説明しており、各設問はそれを踏まえて多面的に課題を抽出し、最重要課題と解決策を提示することを要求しています。

 

問題解決プロセスと倫理要件を踏まえて解答を構成する

4つの設問は、設問(1)~(3)までが問題解決プロセス、設問(4)が業務遂行の倫理要件への問いです。ですから、解答はこれらの問いを踏まえて構成を考えていきます。

問題解決プロセスは、技術士PC(コンピテンシー)のベースであるIEA-PCの考えに合わせて、次の7ステップが良いと考えます。必ずしも7ステップにこだわる必要はありませんが、「修習技術者のための修習ガイドブック」でも7ステップを紹介しているので、試験管もその感覚で問題を作っていると思います。

<問題解決7ステップの基本形>

ステップ1:テーマに関する複合的な問題を特定する

ステップ2:現状から多面的な観点で課題を抽出する

ステップ3:抽出課題について問題の要因を分析する

ステップ4:トレードオフや影響度から最重要課題を選定する

ステップ5:重要課題に対して複数の解決策を提起する

ステップ6:複数の解決策に共通して生じるリスクを提示する

ステップ7:リスクを具現化させないための対策を提示する

必須科目の場合、ステップ1は必要ないかもしれませんが、どのように複合的な問題を認識しているか、どのような観点から課題を抽出するかを簡単に書くと、その後の問題解決の方向性がはっきりしてきます。

解答構成としては、設問(1)にステップ1~3、設問(2)にステップ4~5、設問(3)にステップ6~7を埋めるようにします。設問(4)の業務遂行の倫理要件には、ステップ1~7を遂行するに当たって技術者倫理的に留意すべき点を示せばよいでしょう。

 

設問(1)に対する解答プラン

複合的な問題の内容を明確にする

課題抽出の冒頭に、「経済成長を持続するために必要な社会資本整備の観点から課題を抽出する」と書いて、経済成長の持続を複合的問題と捉え、社会資本整備の観点から生産性向上の課題解決を論じることを明らかにします。

多面的に課題を3つ抽出する

社会資本整備にはフロー効果とストック効果の両面あるので、それらの効果を高める観点から課題を2つ挙げることにします。フロー効果を高めるためには建設産業の生産性向上が課題として挙げられ、ストック効果を高めるためにはストック効果の最大化が課題として挙げられます。また、近年はあらゆる分野でSociety 5.0の実現を目指す施策が進められており、建設分野でもSociety 5.0の実現に向けてデータ駆動技術の実装が課題として挙げられます。

したがって、多面的な観点からの課題は次の3つを挙げることにします。これらは、ネット上にたくさん出てくるフレーズなので、国土交通政策と大きく違わないはずですから、試験管も同意しやすいと思います。

課題1:建設産業の生産性向上

課題2:ストック効果の最大化

課題3:データ駆動技術の実装

各課題について問題の要因を分析する

課題1の建設産業の生産性向上では、担い手不足や施設老朽化の進行の現状から、建設生産システムの高度化、インフラ維持管理の高度化が必要だと分析します。

課題2のストック効果の最大化では、運輸産業の人材不足、自然外力の増大、インバウンド増加の現状から、物流効率化、防災機能強化、インバウンドの利便性拡大が必要だと分析します。

課題3のデータ駆動技術の実装では、データの分散管理、ビッグデータの未活用の現状から、経済活動データや気象・災害データをインフラデータと連携させる必要があると分析します。

これらの分析内容もネット上から拾えますから、知識習得は比較的簡単だと思います。「課題を抽出し分析せよ」の問いに対しては、課題を見出しにして、本文で課題の抽出理由や課題内容を説明すれば良いでしょう。

 

設問(2)に対する解答プラン

トレードオフや影響度から最重要課題を選定する

見出しに「課題1を最重要課題に選定する理由」と書きます。そうすれば、設問(1)で説明した課題のどれを選定したかもわかりますし、その選定理由を述べることもわかります。

大規模災害への対応やインフラ維持管理の増大から、建設産業の担い手を確保する必要があります。一方で少ない担い手でも生産性が上がるよう施策を進め必要もあります。そのため、担い手確保(人員確保)と生産性向上(省力化)はトレードオフであり、そのバランスを図りながら進めなければ、必要なインフラ整備に悪影響が及びます。このような理由から、課題1の建設産業の生産性向上を最重要課題として挙げることとします。

この最重要課題の選定理由は、答案の中で最も重要なポイントだと考えます。ここをしっかり説明しなければ、その後提示する解決策の有効性やリスク評価につながらなくなります。

建設産業の生産性向上における複数の解決策を提起する

最重要課題は、人員確保と省力化のトレードオフから選定しているので、解決策もその両面から提示します。人員確保では多様な人材活用、省力化ではICT活用を提示したいと思います。解決策3は、建設分野に情報分野が大きくかかわるので、そこの連携強化を提示するものです。

解決策1:労働環境の改善と女性・外国人の活用

解決策2:i-ConstructionやBIM/CIMの推進

解決策3:建設産業と他の産業との技術連携強化

試験管もi-Constructionなどの内容は熟知しているので、解決策の内容説明はあっさり書くようにします。

 

設問(3)に対する解答プラン

解決策に共通して新たに発生するリスク

リスクは、最重要課題の選定理由に挙げた、人員確保と省力化のバランスが崩れると起こりうる悪影響を挙げることにします。リスク1は人員確保ができない場合のリスク、リスク2は省力化が進まない場合のリスクです。

リスク1:必要な建設技術開発が遅れ

リスク2:対策向上効果の格差拡大

リスクを具現化させないための対策

リスク対策は次の2項目を提示しようと思います。

リスク対策1:技術者育成システムの強化とナレッジデータベースの構築

リスク対策2:進捗状況の定期的確認と遅延者への技術的・財政的支援策

 

設問(4)に対する解答プラン

技術者倫理に関する解答では、公益確保を最優先に取り組むなど漠然とした表記に留めず、自分なりの意見を述べることが重要だと思います。

また、解答はあくまで設問(1)~(3)を業務として遂行する場合ですから、最重要課題とした建設産業の生産性向上についての倫理的要件を述べなければなりません。

今回、解決策2にICT活用(i-Construction、BIM/CIM)、解決策3に建設産業と他の産業との技術連携強化を挙げたので、倫理の解答はここから話をつなげていこうと思います。ICT活用、AI活用、他産業の参入が進むため、建設技術者がより高い倫理観を持ってインフラ整備に当たる必要があるとの認識を示します。

 

要求事項を満たす解答例

以上の解答プランに沿って解答例を作成してみました。問題文の要求事項は概ね満たしていると思いますので、このようなイメージで模擬答案を作成してみてください。

<令和元年度 建設部門必須科目Ⅰ-1の解答例>
1.経済成長に資する生産性向上の課題
 少子高齢化社会において、経済成長を持続するために必要な社会資本整備の観点から建設分野の課題を3つ抽出し、問題点を分析する。
課題1:建設産業の生産性向上
 社会資本整備のフロー効果を高めるため、建設産業の生産性向上が課題として挙げられる。建設産業の生産性向上では、担い手不足や施設老朽化の進行の現状から、建設生産システムの高度化、インフラ維持管理の高度化が必要と考える。
課題2:ストック効果の最大化
 社会全体の生産性向上に向け、社会資本のストック効果の最大化が課題として挙げられる。ストック効果の最大化では、運輸産業の人材不足、自然外力の増大、インバウンド増加の現状から、物流効率化、防災機能強化、インバウンドの利便性拡大が必要だと考える。
課題3:データ駆動技術の実装
 あらゆる分野でSociety 5.0の実現を目指しており、建設分野でもSociety 5.0の実現に向けてデータ駆動技術の実装が課題として挙げられる。データ駆動技術の実装では、データの分散管理、ビッグデータの未活用の現状から、経済活動データや気象・災害データをインフラデータと連携させる必要があると考える。
2.最重要課題の選定と解決策の提示
2.1課題1を最重要課題に選定する理由
 大規模災害への対応やインフラ維持管理の増大から、建設産業の担い手を確保する必要がある。一方で少ない担い手でも生産性が上がるよう省力化を進める必要もあり、担い手確保と省力化は相反する要求事項となる。そのため、双方のバランスを図りながら施策を進めなければ、必要なインフラ整備に悪影響が及ぶことになる。このような理由から、課題1の建設産業の生産性向上を最重要課題として挙げる。
2.2建設産業の生産性向上の解決策
 社会環境の変化を見据えて、必要な担い手を確保しつつ、建設産業の生産性を上げるための解決策を3つ提起する。
解決策1:労働環境の改善と女性・外国人の活用
 多様な人材を活用できるよう、労働環境の改善や安全教育の高度化を進める。
解決策2:i-ConstructionやBIM/CIMの推進
 建設生産プロセスにおけるICTの全面活用による施工の省力化と維持管理の高度化を進める。
解決策3:建設産業と他の産業との技術連携強化
 建設用機材の高度化や5G技術の導入に向けて、情報関連産業など、他産業との技術連携強化を進める。
3.解決策に共通して発生するリスクと対策
リスク1:必要な建設技術開発の遅れ
 多様な人材活用やICT活用により、建設技術に精通した専門技術者が減少し、必要な技術開発に遅れが生じるリスクがある。技術開発の遅れは、品質の低下や国際競争力の低下にもつながる。
 リスク対策としては、専門技術者育成システムの強化、ナレッジデータベースの構築が有用と考える。
リスク2:生産性向上効果の格差拡大
 施策の進捗の違いで、企業間や地域間で生産性向上効果に格差が生じるリスクがある。特に自治体間での格差は、地域住民の安全・安心や経済活動の低下につながる恐れがある。
 リスク対策として、進捗状況の定期的確認と遅れている自治体への技術的・財政的支援策が必要と考える。
4.業務遂行に必要な倫理的要件
 建設生産プロセスにおける省力化では、生産性や効率化を追求するあまり、品質確保や自然環境保全が軽視されやすくなる。また、ICT技術が進化するにつれて、建設生産プロセスへの他産業の参入機会が増えてくる。そのため、建設技術者は、公衆優先原則や持続性原則に基づき、より高い倫理観を持って業務に当たらなければならない。 
 今後、i-ConstructionやBIM/CIMがより一層進展し、さらには、建設分野でもAI活用が大幅に進むことになる。そのような状況においても、技術者倫理を建設プロセスに反映させることが、我々建設技術者に課せられた責任だと認識している。(以上)

 

まとめ

新制度試験における必須科目は、H24以前の過去問学習やキーワード学習ではうまく解答できないと思います。過去のやり方では、課題と解決策を一対一として捉えてしまうため、複数の課題から重要課題を一つ絞り、その重要課題に複数の解決策を提示することがとても難しくなるからです。

さらに厄介なのは、複数の解決策に共通するリスクでしょう。これも解決策とリスクが一対一なら対応しやすいでしょうが、共通するリスクと言われると何を答えればよいか迷う人も多いと思います。

そして、最大の難関は業務遂行の倫理的要件ではないでしょうか。必須科目で技術者倫理が問われることは、事前にアナウンスされていたとはいえ、軽く書いてあればOKとの認識で臨んで、B判定に屈した人は多かったと思います。

新制度の試験では、この技術者倫理をかなり重視して確認しているようなので、必須科目の答案でも、しっかり倫理の認識を書き込むことが必要だと思います。

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