自分で予想問題を作成するのは、筆記試験対策として有効な方法です。出題確率の高い予想問題の作り方がわかれば、A判定への解答方法も見えてきます。今回は、令和2年度建設部門の必須科目について、予想問題の作り方と解答のヒントを紹介していきます。
国交省予算の重点化項目と出題テーマの関係
筆記試験の出題内容によれば、必須科目Ⅰの出題テーマは「現代社会が抱えている様々な問題」となっていますが、これは「建設部門が抱えている重要課題」と読み替えた方が理解しやすくなります。
建設分野の重要課題に対しては、主に国交省が予算付けをし、公共事業として対策が実施されます。国交省が重要課題として予算付けしている項目は、予算概要の重点化項目で示されています。重点化項目は国交省HPで確認でき、令和2年度なら「令和2年度国土交通省関係予算概要」の「予算の重点化」に示されています。
建設部門の技術士は、インフラ整備事業での活躍が期待されています。インフラ整備は公共事業ですから、予算付けされた事業でなければ実施されませんし、技術士が活躍することもできません。つまり、予算付けされていないテーマで技術士の資質能力を測っても、実務能力の有無は判断できないということです。
ですから、国交省予算の項目に無いテーマが出題されることはないですし、逆に国交省予算の重点化項目に挙がっているテーマは、出題される可能性が高いと言えます。
令和2年度の国交省予算の重点化項目
国交省の令和2年度当初予算の重点化項目は次の通りです。これが決まったのは令和2年1月の段階で、その後、新型コロナ対策を中心とした補正予算が決定されました。必須科目の予想問題を作成する上では、問題作成時期が3月~5月とすると、とりあえず当初予算の重点化項目に着目しておけば良いと思います。
Ⅰ.被災地の復旧・復興
(1) 東日本大震災からの復興・創生
(2) 大規模自然災害からの復旧・復興
Ⅱ.国民の安全・安心の確保
(1) 社会全体で災害リスクに備える「防災意識社会」への転換に向けた防災・減災、国土強靱化の取組の加速・深化
(2) 将来を見据えたインフラ老朽化対策の推進
(3) 交通の安全・安心の確保
(4) 地域における総合的な防災・減災対策、老朽化対策等に対する集中的支援(防災・安全交付金)
(5) 戦略的海上保安体制の構築等の推進
Ⅲ.生産性と成長力の引上げの加速
(1) ストック効果を重視した社会資本整備の戦略的な推進
(2) 観光先進国の実現
(3) 民間投資やビジネス機会の拡大
(4) 現場を支える技能人材の確保・育成等に向けた働き方改革等の推進
(5) 2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会等における対応
Ⅳ.豊かで暮らしやすい地域づくり
(1) コンパクト・プラス・ネットワーク、スマートシティ、次世代モビリティの推進による持続可能な地域づくり
(2) 個性・活力のある地域の形成
(3) 安心して暮らせる住まいの確保と魅力ある住生活環境の整備
(4) 豊かな暮らしを支える社会資本整備の総合的支援(社会資本整備総合交付金)
震災復興と新型コロナの影響は外して出題テーマを絞る
Ⅰの震災復興は、10年目の節目となる令和3年度のテーマになる可能性があるので除きます。Ⅲの生産性と成長力の引上げは、新型コロナの影響でインバウンド激減や2020五輪延期など、状況が大きく変わったので、出題テーマにできないはずです。
そうすると、Ⅱの安全・安心の確保、Ⅳの地域づくりの2項目に絞られます。この2項目は、大規模自然災害や高齢化・人口減少など、新型コロナの影響に関わらず対応しなければならない重要課題です。このことから、令和2年度の必須科目は、この2つのテーマからの出題を想定しておく必要があると思います。
ちなみに、国交省予算の重点化項目は、ここ数年ほとんど変わっていません。平成元年の出題テーマは、建設分野の生産性向上と災害への安全・安心な社会構築でしたが、これは重点化項目のⅡとⅢに該当するものでした。
予算の重点化項目とインフラ政策集から予想問題を作る
出題テーマとは設問(1)の前半に書かれているキーワードのことです。予想問題を作成する上では、この出題テーマ選びが最も難しいのですが、予算の重点化項目から選ぶのも一つの方法です。例えばⅡの安全・安心の確保から、「防災意識社会」というキーワードを選びます。そうすると、「防災意識社会を構築するために、技術者としての立場で・・・」というように、出題テーマを比較的簡単に作ることができるようになります。
また、予算の重点化項目に合わせてインフラ政策集が公表されているので、そこからキーワードを選ぶのも良いでしょう。インフラ政策集としては、「国土交通フォーカス」や「未来につなぐインフラ政策」などが参考になります。
設問(1)の前半に入れるキーワード(テーマ)が決まれば、そこにつなげる前文を作っていきます。前文は、テーマに対する課題抽出にあたっての視点範囲を示すようなイメージで作成していきます。
例えば、令和元年のⅠ-1のテーマは、設問(1)の前半にある「建設分野における生産性向上」ですが、これだけでは建設業界の生産性向上と受け止めらかねないので、前文で「我が国の経済成長」という視点範囲が示されています。Ⅰ-2のテーマは「ハード整備想定を超える災害に対して安全・安心な社会の構築」ですが、これだけではソフト対策の課題抽出と受け止められかねないので、「強さとしなやかさを持った国土強靭化」という視点範囲が示されています。
前文を完璧に文章化する必要はありませんが、課題抽出の視点が一面的にならないように視点範囲を示すキーワードを考えておくようにしましょう。前文に入れるキーワードも、予算の重点化項目やインフラ政策集から、比較的容易に見つけることができます。
前文のキーワードをいろいろ考えているうちに、どのような視点から課題抽出が求められているかがわかるようになります。そうなれば、出題者の意図を踏まえた解答も書けるようになってきます。
令和2年度必須科目予想問題の作成例
以下は、令和2年度の添削指導で使うために、3月に作成した必須科目の予想問題です。この2つは、先に示した予算の重点化項目、Ⅱの安全・安心の確保、Ⅳの地域づくりをテーマとしたものです。赤文字が、テーマや視点範囲を示すキーワードです。
このような状況を踏まえて、以下の問いに答えよ。
(1)頻発化・激甚化する大規模自然災害に対して、社会全体で備える防災意識社会を構築するために、技術者としての立場で多面的な観点から課題を抽出し分析せよ。
(2)(1)で抽出した課題のうち最も重要と考える課題を1つ挙げ、その課題に対する複数の解決策を示せ。
(3)(2)で提示した解決策に共通して新たに生じうるリスクとそれへの対策について述べよ。
(4)(1)~(3)を業務として遂行するに当たり必要となる要件を、技術者としての倫理、社会の持続可能性の観点から述べよ。
こうした状況において、地域の資源や潜在能力を最大限に発揮して、イノベーションを創出する多様性のある地域づくりの推進が必要であることを踏まえ、以下の問いに答えよ。
(1)将来にわたって活力ある地域社会を実現するための社会資本整備に関して、技術者としての立場で多面的な観点から課題を抽出し分析せよ。
(2)(1)で抽出した課題のうち最も重要と考える課題を1つ挙げ、その課題に対する複数の解決策を示せ。
(3)(2)で提示した解決策に共通して新たに生じうるリスクとそれへの対策について述べよ。
(4)(1)~(3)を業務として遂行するに当たり必要となる要件を、技術者としての倫理、社会の持続可能性の観点から述べよ。
重点化項目から複合的な問題を特定し課題を抽出する方法
必須科目の解答では、まず解決すべき複合的な問題を特定しなければいけません。問題とは、出題テーマが目指す目標と現状のギャップですが、目標の捉え方が曖昧なために、問題設定が上手くできていない人が多いように思います。そのような人は、重点化項目の大項目を目標にしてみると良いかもしれません。
例えば、防災意社会の構築がテーマであれば、重点化項目Ⅱの「国民の安全・安心の確保」を目標とします。そして現状を災害の激甚化・頻発化で「国民の危険・不安が増大」と捉えます。そうすると「安全と危険」「安心と不安」など、目標と現状を対比することで、どこにギャップが生じているか見えるようになります。
ギャップが生じている原因を分析すると、クリアーすべき問題点も見えてきますから、課題を論理的に抽出できるようになります。
逃げ遅れで生命の危険が増大しているなら、逃げ遅れる原因を分析します。逃げ遅れがハザードマップなどの災害リスク情報の伝達にあると分析したなら、課題は「災害リスク情報伝達の改善」と抽出できます。これが減災(ソフト)の視点からの課題抽出です。
土砂崩れや洪水氾濫への不安が増大しているなら、不安を増大している原因を分析します。不安の増大が既存施設の規模や強度の不足による信頼性低下だと分析したなら、課題は「既存防災施設の増設・補強」と抽出できます。これが防災(ハード)の視点からの課題抽出です。
相反する要求事項から最重要課題を選定する方法
このように課題が複数抽出できれば、最重要課題は相反する要求事項と影響の大きさから選定していきます。いずれの課題も、人材や費用などのリソースは必要になりますから、対策効果と相反関係が生じます。その相反する要求事項の影響度を評価すると、影響の大きい課題を最重要課題に選定したことを説明できるはずです。
ハード対策のリソース確保が難しいなら、人命確保を優先にすべきと評価してソフト対策を最重要課題に選定しても良いでしょう。施設決壊の影響が広範囲で長期化することを重視して、ハード対策を最重要課題としても良いと思います。最重要課題の選定に正解は無いので、何を選んでも良いのですが、選定するロジックをしっかり説明できるようにすることが重要です。
その他、防災・減災では、要求事項を時間軸の視点から捉えて、影響を評価することもできます。ハード整備には時間がかかりますが、防災効果は長期間有効です。一方、ソフト対策は短時間で可能ですが、形骸化しやすく長続きしないデメリットがあります。このように時間軸の視点から最重要課題を選定するためには、効果継続の側面からも課題を抽出しておけば良いでしょう。
おわりに
技術士試験は、科学技術に関する国家資格試験なので、事実とデータに基づいて論理的・合理的に課題を抽出し、実現可能な解決策を示すことができなければ合格できません。ですから、事実とデータに基づいて決定した国の施策を否定する解答や、根拠を示さず独断で意見を展開する解答は、不合格になる確率は極めて高くなります。また、建設部門が解決できない問題に言及することも避けるべきです。
今年は、新型コロナの影響を踏まえた解答を準備している人がいるかもしれません。自然災害と新型コロナの複合災害への対応は、建設部門にとっても喫緊の課題だと言えるでしょう。しかし、7月の技術士試験でその解答を求める可能性は、極めて低いと思います。ポストコロナ時代のインフラ整備のあり方は、これから多くの場面で問われてくるはずですが、今はまだデータに基づく論理的・合理的な解決策を提示できない段階だと思います。

