願書に「高等の専門的応用能力」を発揮した業務経歴を書きたいけれど、普通の業務経験しかないので書けない。そう悩んでいる人が多いようです。でも、「普通の業務」を「技術士にふさわしい業務」に変えることができれば、その悩みは解消しますよね。
普通の業務だって技術士にふさわしい業務なのです
あなたが経験した業務は、多かれ少なかれ科学技術を使ったはずです。科学技術は、使い方によっては大事故につながります。たとえ小さな道路工事でも、欠陥工事が原因で死亡交通事故につながるリスクはあります。
人命に係るような重大なリスクを抱えている業務の責任者なら、リスクをコントロールする責任があります。責任の重さに、仕事の大小とか所属組織の知名度は関係ありません。取り扱う技術の難易度も、技術の新旧も関係はないのです。
原子力利用をド素人に任せるわけにはいかいように、小さな道路工事もド素人に任せると取り返しのつかない結果になるのです。
小さな道路工事であっても、あなたのリスクコントロールによって、利用者の生命財産が守られているなら、それは十分に技術士にふさわしい業務と言えるはずです。
技術士にふさわしい業務だと気付いていないだけでは?
普通の業務であっても、必ず技術的課題あったはずです。あなたは、それに気付いていないだけかもしれません。あなたがやってきた仕事は、簡単な仕事ばかりではなかったはずです。
マニュアル通りでは上手くいかないのでやり方を変えたこと、工期の制約が厳しくて苦労したこと、品質かコストかで悩んだことなど、いろいろあったと思います。
そして、あなたはその都度、問題を解決してきたのではないでしょうか。自分の知識と経験を駆使し、新たな技術も習得して、エンドユーザーのことを第一に考え、あなたなりに最善の解決策を見出してきたのではないでしょうか。
技術士にふさわしい「専門的応用能力」とは、そのような問題解決能力のことです。高等かどうかは、問題解決プロセスの内容次第で決まります。技術士だからといって、高度とか特殊な業務を要求しているのではありません。
「自分は普段、技術士にふさわしいような高度なことはやってない」
そう思っている人のほとんどは、技術士にふさわしい経験を持っているのに、それに気づいていないだけです。
業務経歴は契約単位ではなく課題解決単位で書くのです
願書の業務経歴票に書く5業務は、どうしても契約単位になってしまいがちです。「この業務の課題や問題点は?」と聞けば、「いろいろあって複雑なんですよね」みたいな答えが返ってきます。
技術士にふさわしいかどうかは、経歴票の詳述業務で確認するのですが、たった720文字です。いろいろあって複雑な話しを、720文字で書くのは無理ですし、読み手も理解できません。
確認したいのは、課題解決ストーリーです。あなたが、課題(目的)達成のために、クリアーすべき問題点をどう捉えて、どう考えて解決策を提案したかを知りたいのです。
願書の経歴票に書く業務は、いろいろあって複雑な契約単位ではなくて、課題解決単位に括ると分かりやすくなります。
どんな業務も課題解決3パターンにはめてみましょう
課題解決ストーリーは、次の3パターンに当てはめると、詳述業務が分かりやすくなります。普通の業務であっても、これらのいずれかに当てはまる業務は多いはずです。
① 一般的手法の課題を解決
② 確立手法が無いので解決
③ トレードオフ関係を解決
一般的手法を改善・工夫したなら①のパターン、マニュアルが全くなければ②のパターンです。③のトレードオフは、どんな業務にも多かれ少なかれあるはずです。①②が無いならトレードオフ解決を考えてみましょう。
トレードオフとは、一方を達成するために他方の犠牲にしなければならない関係のことです。よくあるのがコストと品質の関係です。コスト削減と品質向上は反比例の関係になりますよね。建設工事なら、工期と安全もトレードオフになりやすいと思います。
トレードオフの関係を見つけるにはQCDSME、Quality(品質)、Cost(経費)、Delivery(納期)、Safety(安全)、Moral(意欲)、Environment(環境)を考えると見つかりやすいです。橋を壊して作り直すのは安全で長持ちするけど、コストや工期の面で不利など、トレードオフ関係はいくらでもあるはずです。
小さな仕事ほど課題解決ストーリーはたくさんあるかも
道路に埋まっている排水管を交換するような小さな工事なら、地質調査もほとんど行われませんよね。工事責任者は、緩い地盤で地下水が高いかもしれない、掘削面が崩れたら工期は守れるだろうか、予算は守れるだろうかなど、いろいろ心配事(リスク)が頭をよぎります。
大型工事なら十分な調査が行われ、委員会などでリスク検討も事前に十分行われるでしょう。施工中のトラブルも、委員会の学識経験者に相談して解決できます。
しかし、小さな工事では大雑把な条件しか与えられず、工事に潜むリスクに対しては、担当者自身で対策を検討しなければなりません。施工中のトラブルも、自ら解決しなければならないはずです。
考えようによっては、小さな仕事の担当者の方が、リスクコントロールの責任は大きく、課題解決ストーリーをたくさん持っているかもしれません。
あなたの業務、実は高度な課題解決ストーリーだったのでは?
普通の業務でも、以下のような課題解決ストーリーは多々あると思います。概ねこんな感じのことが言えそうなら、その業務は技術士にふさわしい業務になり得ます。
- 材料のバラツキが大きいので、標準の試験回数を増やす品質管理手法を採用した。
- 劣化状況が不均質だったので、劣化原因毎に対策範囲を設定して工費を削減した。
- 標準勾配の適用できない地盤に対し、安全な掘削勾配の設定と施工方法を検討した。
- 崩壊性の沢地形において、土砂混入量を見込んだ仮設排水路の断面検討を行った。
- 施工順序と変形特性の変化の関係から、工期短縮と品質確保の最適解を見出した。
- 作業効率と環境負荷の面から検討し、作業道路設置による森林伐採計画を策定した。
初めの2つが「①一般的手法の課題を解決」、真中の2つが「②確立手法が無いので解決」、最後の2つが「③トレードオフ関係を解決」になります。
もしかすると、あなたが経験した普通の業務が、実はすごく高度な課題解決ストーリーなのかもしれません。
まとめ
どんなに小さな仕事でも、科学技術ののリスクをコントロールしたのなら、技術士にふさわしい業務だったといえます。
あなたも技術士にふさわしい業務経験を持っているのに、それに気づいていないだけかもしれません。
業務経歴票は契約単位で書くと分かり難いので、課題解決単位で書くようにしましょう。
普通の業務でも、「①一般的手法の課題を解決」、「②確立手法が無いので解決」、「③トレードオフ関係を解決」のどれかに当てはまれば、それは技術士にふさわしい業務になり得ます。
小さな仕事の担当者の方が、リスクコントロールの責任が大きいので、課題解決ストーリーをたくさん持っているかもしれません。
もしかすると、あなたが経験した普通の業務が、実はすごく高度な課題解決ストーリーなのかもしれません。

