業務経歴票で創意工夫をアピールしたいけど、マニュアル通りの業務しかないからアピールできない。そう悩んでいる人が多いと思います。でも、マニュアル通りでOKの結論を導くには、創意工夫が必要なのでアピールはできるはずです。
そもそも創意工夫という言葉にこだわる必要はありません
願書・経歴票を添削に出すと、「創意工夫が見られません」とつき返されることがあります。でも、創意工夫という言葉は、普段ほとんど使いませんよね。創意工夫を見せようと仕事をしている人は、皆無だと思います。
創意工夫の意味をネットで調べると、「今までだれも思いつかなかったことを考え出し、それを行うためのよい方策をあれこれ考えること」と出てきます。そんな業務、普通の人に求められても、困ってしまいます。
創意工夫という言葉は、技術士法にズバリ書いてあるわけではありません。私が思うに、技術士の世界では、以前から技術士法第2条の定義にある「専門的応用能力」を創意工夫により課題を解決する能力と解釈されてきた歴史があるのでしょう。だから、技術士は創意工夫にこだわるのだと思います。
私も技術士ですが、創意工夫という言葉に、あまりこだわる必要はないと考えます。今の若い技術士たちも、それほど創意工夫にはこだわっていないでしょう。こだわるべきは、創意工夫よりも課題解決の意識です。
問題解決には必然的に創意工夫が必要になるはずです
創意工夫を創意と工夫に分けて考えてみましょう。課題に対して問題点を見つけたことが「創意」、問題点の解決に向けての検討が「工夫」とすれば、少しは分かりやすいかもしれません。
ある課題を解決するとき、まずは解決マニュアルを探しますよね。技術士だってそうします。
そこであなたが、何の疑いもなくマニュアル通りに進めれば、課題を解決したのは、あなたではなくてマニュアルということになります。なので、その業務は技術士にふさわしくありません。
でも、マニュアル通りに進めるべきか、一度でも立ち止まって考えたなら、その時点で課題解決の主体はあなた自身になります。結果、マニュアル通りに進めることにしたとしても、あなた自身が、課題解決に向けての問題点を見出し、何らかの検討によって、その結論に至ったのです。
創意工夫をせずにマニュアルに従ったのではなく、創意工夫した結果でマニュアルに従って良いという結論に至ったということです。
あなたが課題解決をしたのなら、必然的に創意工夫は必要になったわけで、経歴票の詳述業務には課題解決プロセス、ストーリーを書けば良いのです。
小さな業務の方が創意工夫を発揮しやすいかもしれません
仕様書通り、マニュアル通りにやる小さな業務こそ、創意工夫は発揮しやすいと思います。
大型プロジェクトなら、進める前に慎重に調査して、たくさんのスタッフで技術的問題点を洗い出します。その上で十分に対策を練り、トラブルが起こっても優秀なアドバイザーに解決策を求めることも可能です。
一方、普通の小さな業務では、事前の調査も十分に行われません。とりあえず仕事を進めながら、その都度技術的問題点と解決策を検討しなければなりません。スタッフも限られていて、優秀なアドバイザーに助けを求めることもできません。
業務を進める上で、技術的問題点を抽出するのは誰ですか? その解決策を決定して実行するのは誰ですか?
大型プロジェクトなら、あなた一人に全てを任されることは無いですよね。でも、普通の小さな業務なら、それを全て一人でやらなければいけないのです。
普通の小さな業務の方が、創意工夫を発揮しやすいと思いませんか? もし、小さな業務の経験が豊富なら、自身の創意工夫で技術的問題点を解決した経験をたくさん持っていることになるはずです。
創意工夫は成果ではなく問題解決プロセスでアピールしましょう
願書・経歴票では、創意工夫をアピールしましょうと言われますが、どうやってアピールすれば良いのでしょうか?
経歴票の5業務は、高等かどうかは別として「計画、研究、設計、分析、試験、評価、指導」などと書いてあれば十分です。書ける文字数も限られているので、ここで創意工夫をアピールするのは難しいですし、アピールできなくても合否に大きく影響はしません。
問題は経歴票に○を付けた詳述業務です。詳述業務には少なくとも、①立場・役割、②課題・目的、③技術的問題点、④解決策・提案、⑤技術的成果を書くはずです。その中のどこで、創意工夫を発揮したかを明確にアピールすることがポイントになります。
まれに、⑤技術的成果で「日本で初めて採用した」などのような記述を見ます。誰もやったことのない創意をアピールしているのですが、ほとんどの受験者は「日本初」の成果など持っていませんよね。
先にも書きましたが、創意を③技術的問題点、工夫を④解決策・提案と考えると、マニュアル適用でもこんな書き方ができると思います。
「リスクが大きいので、マニュアルをそのまま適用しなかった」
「リスクはあるが、リスク軽減を加えてマニュアル通り進めた」
どちらも、技術的問題点(リスク)を抽出して解決策(リスク対策)を導いた思考プロセス(ストーリー)をアピールしたものです。
排水管工事をマニュアル通りに行った場合の創意工夫とは
例えば、「道路下の排水管をマニュアル通りに施工した」としても、掘削面の崩壊リスクに対し、以下のようなストーリーなら、十分に創意工夫を発揮したと言えるはずです。
「車輌振動の影響を考え、マニュアルの掘削勾配を1ランク安全側で適用した」
「車輌振動の影響はあるが、掘削面の監視体制を強化しマニュアル通りとした」
どちらのストーリーも、マニュアルを使って掘削勾配を決めて、安全に施工ができたというものです。
この場合、車輌振動の影響をどのように捕らえたかが、「創意」のアピールどころです。土質、地下水位、交通量など、問題点抽出の着目点をアピールするようなワードを見せるべきです。
マニュアル適用の結論に至った「工夫」もアピールできます。マニュアル適用の理由に、確実性、信頼性、早期施工などの文言があれば、工夫点はアピールできるでしょう。
もちろん、実物実験から掘削勾配を決めることも、高度な解析やシミュレーションで決めることもできます。それをやって、安全な工事ができたとしても、それが創意工夫を発揮したとは言い難いはずです。
まとめ
創意工夫という言葉にこだわる必要はありません。こだわるべきは課題解決です。
技術的問題点を見つけることが「創意」、問題点の解決策検討が「工夫」と考えましょう。
問題解決に創意工夫は必ず必要で、マニュアル適用が解決策でも創意工夫の結果のです。
「マニュアル通りでOK」の結論を導いた思考プロセスこそが、創意工夫の発揮どころです。
小さい業務はマニュアル通りですが、何でも一人でやるので創意工夫は発揮しやすいです。
創意工夫は成果でアピールするのではなく、技術的問題点と解決策でアピールしましょう。
創意は問題抽出の着目点、工夫はマニュアル適用理由のところにキーワードを入れましょう。

