課題解決問題は筆記試験のみならず口頭試験にも影響します。ここの出来が悪いと技術士合格は厳しくなります。課題解決問題で採点者は何を確認しようとするのか、どのように解答すれば合格点がもらえるのかを解説します。
採点者が確認したい項目3つ
受験申込書案内に書かれている課題解決問題の「概念・内容」を見てみましょう。
<Ⅲ課題解決問題の概念・内容>
概念:社会的なニーズや技術の進歩に伴い、最近注目されている変化や新たに直面する可能性がある課題に対する認識を持っており、多様な視点から検討を行い、論理的かつ合理的に解決策を策定できる能力
内容:「選択科目」に係る社会的な変化・技術に関係する最新の状況や「選択科目」に共通する普遍的な問題を対象とし、これに対する課題等の抽出を行わせ、多様な視点からの分析によって実現可能な解決策の提示が行えるか等を問う内容とする。
これによれば、採点者は次の3項目を確認しようとしています。
① 現状認識に基づく課題抽出
② 多様な視点からの分析
③ 論理的・合理的解決策の提案
ここで忘れてはいけないのが、あなたの課題解決能力を確認すると言うことです。
建設部門の問題では、白書や審議会資料の内容を書けば良さそうなものが多くあります。しかし、その内容を答案に書いたとしても、それは国交省や審議会の課題解決策でしかありません。課題解決の主体があなた自身で無ければ、絶対に合格点はもらえないことを理解しましょう。
問題文から課題解決の目標を把握
そもそも何のための課題解決か、解答を書く前にそれをしっかり把握することが重要です。
課題解決の目標(ターゲット)は、問題文に書いてあります。いわゆる問題のテーマがそれです。そのことをH29年の建設部門-建設環境Ⅲ-1の問題文から確認してみましょう。
H29建設環境Ⅲ-1
国土全体にわたって自然環境の質を向上させていくためには、国土レベルで、生態系ネットワーク(エコロジカルネットワーク)を確保することが重要である。このような状況を踏まえ、以下の問いに答えよ。
(1)生態系ネットワーク形成によりもたらされる効果を複数挙げ、それぞれの内容について述べよ。
(2)生態系ネットワーク形成に当たって特に重要と思われる技術的課題を2つ挙げ、それぞれについて解決するための技術的提案を複数述べよ。
(3)生態系ネットワークが形成された場合に生じるリスクについて述べよ。
前文に「生態系ネットワークの確保」とありますよね、この「確保」が課題解決の目標です。解答はこの目標に向かって解決すべき課題を抽出し、解決策を提示しなければなりません。
ところで、目標は「確保」ですが、(1)~(3)の設問では生態系ネットワークの「形成」となっていますよね。この形成とは、確保のための手段のような意味です。つまり、確保に向かって形成していくということです。
ただし、形成したからと言って、100%確保できるわけではないことも理解しておきましょう。ですから、(3)では形成した場合のリスクを聞いているのです。もし、100%確保できたならリスクはゼロのはずです。解答に「リスクなし」とは書かないですよね。リスク・ゼロの解決策なんてあり得ないわけです。
実際の試験では書くことに集中するあまり、何のために書いているかを忘れがちです。目標を見失った論文に、合格点は付けられないですよね。
解答の中に絶対入れるべき4項目
問題文がどうであれ、問われているのは以下の4項目だと認識しましょう。
① 現状の認識(現状の背景や問題点)
② 課題の抽出(抽出数を指定される)
③ 解決策の提案(提案数を指定される)
④ 提案の評価(リスク・課題・改善策)
この4項目があってはじめて、あなたの課題解決能力を評価できるようになります。1つでも欠けると、部分的に評価できないので評価点は低くなるので、解答の中に4項目全てを入れるべきです。
では、この4項目がどのように問われているかをH29道路Ⅲ-2の問題で見てみましょう。この問題文には、課題・解決・リスクなどの言葉が出てこないので、解答項目が難いと思います。
H29道路Ⅲ-2
我が国は、近年広域的な地震災害に見舞われ、さらに南海トラフを震源とする地震や首都直下地震等の巨大地震の発生が懸念されている。道路に携わる技術者として、以下の問いに答えよ。
(1)地震災害時における緊急輸送道路の役割と指定に当たっての考え方を述べよ。
(2)巨大地震の発生時に緊急輸送道路がその役割を十分果たせるよう、あらかじめ取り組むべき事項について2つ挙げ、それぞれの具体的内容を述べよ。
(3)(2)で述べた2つの取組みの実効性を高めるための方策について述べよ。
テーマは「巨大地震発生時における緊急輸送道路の機能確保」です。これが課題解決の目標になります。裏を返せば、現状のままでは何か問題があって、被災時に緊急輸送道路が機能しないということです。
(1)で役割と指定に当たっての考え方が問われています。ここで「①現状の認識」を聞いています。解答としては、耐荷力不足で地震後は通れないとか、迂回路がないなど、現状の指定路線では初動活動に支障が生じているなどのように、現状の問題点を書けば良いでしょう。
次に、現状の問題を解決するためにやるべきことが(2)で問われています。(2)の問いに対しては、まず「②課題の抽出」をします。課題とは目標に向かってやるべきことなので、現況道路の性能向上や初動時の代替路確保などのような書き方とします。
課題が抽出できれば、課題を進めるに当ってクリアーすべき問題(①現状認識で挙げたような問題)に対し、クリアーする方法を提示します。これが「③解決策の提案」です。書き方は、橋梁耐震化やヘリポート連絡路の整備のように、こうすれば課題が進みますという具体策とします。
そして(3)では、提示した解決策の実効性を高める方策が問われていますが、「④提案の評価」を聞いていると理解すべきです。提案した解決策にも、実効性を阻害する課題やリスクがあるということですね。解答には、課題・リスクとして施設老朽化や連携手続きの煩雑性を挙げ、改善策として長寿命化や緊急時の手続き簡素化などを書けば良いでしょう。
内容を把握しやすいタイトル付け
採点者は、タイトルを眺めることで合否論文を概ね分けます。ですから、採点者が、ぱっと見て内容を把握できるタイトル付けをしましょう。解答に書くべきこと4項目にタイトル付けをして、採点者がタイトルを見ただけで、どこに何が書いてあるかを把握できるようにすべきです。
先ほどのH29道路Ⅲ-2の問題なら、以下のようなタイトル付けができると思います。重要な課題の抽出や解決策には小タイトルを設け内容が見えるようにするのが良いでしょう。
1.緊急輸送道路の役割と指定の現状
2.解決すべき課題の抽出
(1) 現況道路の性能向上
(2) 初動時の代替路確保
3.実現可能な解決策の提案
(1) アプローチを含めた橋梁耐震化
(2) ヘリポートへの連絡路整備
4.解決策の課題と改善策
多様な視点の見せ方
確認されることの一つに「多様な視点からの検討」があります。これは、「課題・解決策を違う視点から複数挙げているか」で評価されます。違う視点の見せ方は、検討項目の数ではなく、検討した視点の多面性や広さと捉えるべきです。以下のように時間、過程、立場などに分けると考えやすいくなると思います。
- 時間:日常時、洪水時、地震時の視点
- 過程:計画、設計、施工、管理の視点
- 立場:設計者、施工者、利用者の視点
- 分野:道路、河川、地質、環境の視点
- 要素:人間、施設、経費、制度の視点
- 作用:永続、変動、偶発、環境の視点
- 性能:使用、修復、安全、耐久の視点
他にも、多様な視点の見せ方はあると思うので、自分なりに整理しておくことをお勧めします。
あまり難しく考える必要はありません。防災施設設計なら日常時・異常時、安全性・修復性から構造形式を決定したりしますよね。それらが解答の中に入っていれば、多様な視点は十分評価されるでしょう。事業計画の業務なら、BenefitとCostの両面から分析したということでも、多様な視点からの検討といえるはずです。
問題文にも、多様な視点のヒントは隠されているので紹介します。
先に示したH29建設環境Ⅲ-1では、前文に「国土レベルで、生態系ネットワークを確保することが重要である」と書かれています。国土という言葉から「エリアの保全」、ネットワークという言葉から「エリアの連結」などを連想することができます。エリアの保全と連結はそれぞれ違う視点からの検討が必要になります。
同様に、先に示したH29道路Ⅲ-2の問題文では、「地震災害時における緊急輸送道路の役割と指定に当たっての考え方を述べよ」とあるので、役割と指定の視点で多様性を見ようとしているのでしょう。この問題のように、多様な視点をあらかじめ与えてくれている問題もあるので、問題文はしっかり読むようにしましょう。
倫理的・合理的の見せ方
あなたが提案した解決策は、論理的・合理的に策定されたものでなければなりません。採点者が確認したいのは、解決策を導いた思考プロセスです。
例えば「少子高齢化で労働者が不足する。そのため、外国人労働者の活用を促進する」というように、解決策と提案理由までなら比較的簡単に書けます。こういう答案は多いと思います。
この2段式ロジック(解決策←理由)でも、間違いではないのですが、提案と理由しかないので、論理的思考は見えないでしょう。しかも、これでは答案のマス目もなかなか埋まりませんよね。
そこで次に、提案理由の根拠まで示す3段式ロジック(解決策←理由←根拠)とすると、どうなるかやってみましょう。
理由の根拠とは、提案理由(良くない状態)を放置すると、どのような困った状態に陥るかということです。労働力不足をそのまま放置するとどうなるか? 「点検補修ができず防災機能が消失」「多発する自然災害の復旧作業が遅れる」などが考えられますよね。これを文章にして2段式の場合と比べてみると、その違いが分かります。
2段式の場合:
少子高齢化で労働者が不足する。そのため、外国人労働者の活用を促進する必要がある。
3段式の場合:
少子高齢化で労働者が不足する。このままではインフラの点検補修ができず施設老朽化が進み防災機能が失われる。また、近年多発している災害時の復旧作業も遅れる。そのため外国人労働者の活用を促進する必要がある。
どうでしょう、3段式の方が格段に論理的な文章ですよね。
1つの解決策に対し、提案理由2つとか理由の根拠を3つとか、ロジックの枝を増やせば多様な視点も見せることもできます。慣れてくると、頭の中で簡単にロジックの組立てができるようになります。
まとめ(課題解決問題での解答の仕方)
採点者は、①現状認識に基づく課題抽出、②多様な視点からの分析、③論理的・合理的解決策の提案の3つを確認します。
課題解決の目標が問題のテーマです。試験中も目標を見失わないようにしましょう。目標を100%達成する解決策はあり得ません。必ず課題・リスクは残ります。
解答には、①現状の認識、②課題の抽出、③解決策の提案、④提案の評価を絶対に入れましょう。この4項目にタイトル付けをして解答しましょう。
タイトルは、採点者がぱっと見て内容が把握できるようにしましょう。論文の核となる課題の抽出や解決策には、内容が把握できる小タイトルを付けましょう。
多様な視点は、施設設計なら日常時・異常時、安全性・修復性程度で十分に見えます。問題文にも多様な視点のヒントは隠されているので、見逃さないようにしましょう。
論理的・合理的を見せるために、解決策を3段式ロジック(解決策←理由←根拠)で導き出しましょう。そうすれば、格段に論理的な文章が書けます。

