2018年10月16日、財務相の諮問機関である財政制度等審議会(財政審)の財政制度分科会が開かれ、2019年度予算編成に向けた財務省の考えをまとめた資料が示されました。この資料は、社会資本整備のあり方を財務省の視点で示したもので、国土交通省の視点からまとめられた白書とは少し見方が違います。
資料は「安全・安心の向上」と「生産性の向上」の2つのパートに分かれていて、それぞれに重要な建設施策のキーワードが含まれています。これらのキーワードに対して予算が付けられ、建設施策が進められていくことになります。
財務省から公開された資料について、私なりにポイントを整理してみました。
財政制度等審議会 財政制度等分科会
安全・安心の向上についてのポイント
防災・安全交付金の個別補助化
今回一番注目されるのは、防災・安全交付金の個別補助化による重点的支援と自治体のソフト対策の推進です。
これまで地方自治体の社会資本整備事業は、防災・安全交付金事業と社会資本整備総合交付金事業の2本立てとなっており、老朽化対策や防災・減災対策は防災・安全交付金事業として実施されてきました。
しかし財務省は、自由度が高く地方の創意工夫を活かせる交付金では、地方の防災対策や老朽化対策が進まないと指摘しています。そのため、今後は優先的に取り組むべき事業は、個別補助に順次切り替えるべきとしたのです。これはある意味、正論のようにも思えるのですが、かつて補助金は無駄な公共事業の温床になっているとの指摘を受けてきただけに、今後国会でどのように議論されるかが注目されます。
また、防災・安全交付金の配分のあり方についても言及しており、自治体のソフト対策の実施状況を重点配分の要件とすべきとしています。真意の程は分かりかねますが、財務省はインセンティブを高める方策という言い方もしていることから、例えば土砂災害警戒区域等の指定状況などが遅れている自治体は、交付金を減らすということかもしれしれません。
インフラ維持補修・更新費の中長期展望
インフラ長寿命化に対しては、一部の地方公共団体で目標としている取組を全国で徹底した場合には、費用の増加が相当程度抑制されるとしています。この一部の地方公共団体がどこを指しているかは不明ですが、長寿命化だけではなく、統廃合により施設数の縮減を進めてコストを削減している事例があるということです。このような事例を見習って、施設管理計画を見直すべきだとしています。加えてPPP/PFIや新技術の導入により対策を強化すれば、現在の予算の水準でもインフラ老朽化への対応は可能になるとも考えているようです。
さらに、本格的な人口減少社会の到来を見据えれば、コンパクト・プラス・ネットワークの考え方も踏まえて、社会インフラの統廃合についても、長寿命化計画の中にしっかり反映すべきとしています。今後は、インフラを構築する時代から捨てる時代に入っていくということかもしれません。国土交通省は、既存ストックを賢く使う施策を進めていますが、既存ストックを捨てる施策を打ち出してくるのか注目したいと思います。
生産性の向上についてのポイント
既存インフラの有効活用による物流の効率化
先進安全自動車(ASV)技術の進展を踏まえ、安全確保を前提に、規制速度の引上げを更に進めることを検討し、物流効率化を通じた生産性の向上を図るべきと指摘しています。そのため、暫定2車線区間でのワイヤロープによる安全対策、新東名で実証実験が進められているダブル連結トラックやトラック隊列走行については、予算を確保して進めるべきと考えているようです。自動運転社会の実現も近いことから、既存の高速道路の機能強化は一層進むことになるでしょう。
また、高速道路については、有料・無料区間が混在している路線を有料化するなどして、維持管理費を利用者にも負担させる考えも示しています。つまり、財務省は高速道路を無料化する方向ではなく、利用者負担を増やす方向に進めるべきとしているのです。
その他、物流の効率化については、青函トンネルのボトルネックを解消し、新幹線の速達性を確保するとともに、既存港湾においてフェリーやRORO航路を新設するなど、北海道全体での効率的な物流を実現する方策を検討すべきとも指摘しています。
空港整備勘定のあり方と千歳飛行場共用化による空港機能強化
一般にはほとんど知られていない空港整備勘定(空整勘定)にも言及しています。この空整勘定は、空港使用料などの自主財源に一般会計を組み入れて、空港整備や空港の維持補修の財源として使われているものです。これにより、インバウンドが増えたとも言えます。
財務省は、インバウンドの増加、空港コンセッション(民営化)の進展、発着枠オークション制の導入等により、空港は自主財源で独立採算化が可能なので、空整勘定への一般財源の組み入れを減らすべきとしています。
また、需要が増加している新千歳空港については、滑走路等の増設を考える前に、隣接する防衛省の千歳飛行場の滑走路を活用することも検討すべきと指摘しました。既存施設を有効に使って空港の機能強化を図るよう、関連省庁が連携を取るべきとしたものです。これに対して、国土交通省と防衛省が、どのように調整していくことになるのか注目したいと思います。
民間資金の活用と新技術の活用
民間資金の活用では、PPP/PFI事業をさらに推進すべきとし、道路分野におけるコンセッションの活用、上下水道事業の経営効率化、下水道使用料の受益者負担増などに言及しています。
i-Constructionについては、生産性の向上の観点に加え、建設・維持管理コストの縮減を実現していくことが重要とし、社会実装に必要な支援を効果的に行っていくべきと考えており予算付けをするようです。
また、IoTを活用した危機管理型水位計を例に挙げ、最先端技術の現場実証を推進し、新技術を活用した建設・維持管理コストの大幅削減を早期に実現すべきとしています。コスト削減に資する技術革新がどんどん進むものと思います。

