新制度の筆記試験で確認する資質能力の項目が公開されました。この公開資料から解答すべき内容を考えてみます。新制度試験で評価する資質能力(8項目)はすでに公開済みですが、今回公表された資料では各資質能力をさらに細分化して示す内容です。
資料は第28回(2018.11.06)技術士分科会・試験部会の配布資料の参考資料7で、文科省HPからPDFがダウンロードできます。
筆記試験の科目別確認項目
公開された資料によれば、4つの筆記試験問題で確認される資質能力の項目は、次の表の通りです。
| 資質能力 | 必須科目Ⅰ | 選択科目Ⅱ-1 | 選択科目Ⅱ-2 | 選択科目Ⅲ |
| 専門学的知識 | 基本知識理解 | 基本知識理解 | 基本知識理解 | 基本知識理解 |
| - | 基本理解レベル | 業務理解レベル | - | |
| 問題解決 | 課題抽出 | - | - | 課題抽出 |
| 方策提起 | - | - | 方策提起 | |
| 評価 | 新たなリスク | - | - | 新たなリスク |
| 技術者倫理 | 社会的認識 | - | - | - |
| マネジメント | - | - | 遂行手順 | - |
| コミュニケーション | 的確表現 | 的確表現 | 的確表現 | 的確表現 |
| リーダーシップ | - | - | 関係者調整 | - |
この内、専門学的知識の基本知識理解と基本理解レベル、コミュニケーションの的確表現は、簡単に言うと専門知識と文章力のことで、また別の機会に説明したいと思います。
今回注目したのは、問題解決の課題抽出と方策提起、評価の新たなリスク、技術者倫理の社会認識、マネジメントの遂行手順、リーダーシップの関係者調整という表記です。
必須科目Ⅰと選択科目Ⅲで最も重要視される3項目
旧試験制度でも同じですが、技術士レベルの試験で最も重要視されるのは、課題抽出、方策提起、新たなリスクの3項目です。
いくら知識が豊富で文章が上手くても、それだけで技術士にはなれません。そもそも知識はネット検索で補完できますし、文章は他の人に校正させることもできます。
しかし、絶対的な答えが存在しない複合的な問題は、いくらネット検索しても、いくら文章力があっても解決できません。しかも、素人では発見し難い大きなリスクを抱えているので、複合的な問題は、技術士に最適解を委ねなければ危険なのです。
参考記事:技術士が解決する複合的なエンジニアリング問題ってなんだ!?
大切なことは、複合的な問題を見極める能力で、問題を明確にする分析力です。問題が明確化できれば、課題も的確に抽出できることになります。課題抽出ができれば、解決策も合理的に提案できるのです。
そして、複合的な問題には絶対的な答えは無いので、提案した解決策にもリスクは必ず含まれています。これが評価の新たなリスクです。そのリスクの大きさを的確に評価して、クライアントやユーザーに説明できる能力が技術士には絶対に必要なのです。
必須科目Ⅰでは技術者倫理の社会的認識の解答が重要
必須科目Ⅰにおいて、どのように技術者倫理が問われるのか、あるいは確認されるのかが少し謎でした。しかし、今回の公開資料を見て、公衆の安全や地球環境の保全等の公益確保の行動原則について、社会的認識を確認することが示され、なんとなく見えてきたような気がします。
実際の試験問題を見るまでは分かりませんが、「自然災害への対応や環境保全の問題に対し、技術士としてどのように行動すべきか」というような問いになる可能性は高いと考えます。解答には、「社会の持続性確保に対する責任と覚悟を持って行動する」などの文言を入れる必要があるかもしれません。
必須科目は、白書や審議会資料をアレンジした答案が多いと思います。試験官からすると、同じような課題と解決策を書いた答案が並ぶということです。
同じ課題と解決策なら、文章力でも差は付くでしょう。しかし、技術者倫理の書き方は個人差が出ると思うので、ここが合否を分ける大きな要因になるかもしれません。技術者倫理を解答していなければ、それだけで不合格もあり得ると思います。
選択科目Ⅱ-2では業務遂行手順と関係者調整の解答が重要
選択科目Ⅱ-2の問題では、業務遂行手順と関係者調整が確認されます。もともと、Ⅱ-2は業務遂行手順を問う問題でしたが、関係者調整に言及する設問はありませんでした。そのため、関係者調整を意識していた人は少なかったと思います。
私自身、利害関係者の調整が重要ポイントになる業務以外は、Ⅱ-2問題でそれほど意識する必要は無いと考えていました。しかし、今後は解答の中に、関係者との利害等の調整を何がしか入れる必要があるのかもしれません。
解答方法についてはもう少し考えてみますが、おそらくリスクコミュニケーションによる調整を解答に入れるのが良いと思われます。
公共事業関係の業務であれば、地域住民、発注者、関連専門業者など、様々な関係者の立場でリスクの種類や大きさは変わってきます。業務責任者には、それぞれのリスクを考えながら利害の調整を図る能力が求められます。
また、企業組織内のチームマネジメントにおいても、スタッフは個々に価値感や能力が違うので、役割分担を間違うと生産性や品質が低下するリスクがあります。チームリーダーとしては、そのようなリスクを踏まえて、スタッフの能力をより効果的に発揮させる能力も求められます。
いずれにしても、リスクマネジメントにおいてリーダーシップを発揮できる能力を見せることが、評価の分かれめになると思います。
選択科目Ⅲは口頭試験に向けて新たなリスクの解答が重要
口頭試験では、コミュニケーション、リーダーシップ、マネジメント、評価、技術者倫理、継続研さんの6つの資質能力を確認されます。口頭試験の参考資料としては、これまで同様に選択科目Ⅲの答案と業務経歴票です。
選択科目Ⅲと口頭試験の両方で確認される資質能力は、コミュニケーションと評価の2つです。
つまり、選択科目Ⅲの答案で新たなリスクの出来が悪ければ、口頭試験で確認される可能性が大きいということです。
そのため、選択科目Ⅲでは新たなリスクを意識した解答が重要になるでしょう。この解答がない、あるいは薄い場合は、A評価をもらうことは難くなりそうです。
答案には「解決策による新たなリスク」のような小見出しを付けるなど、新たなリスクが書いてあることをはっきり見せるのが良いかもしれません。その方が、試験官に伝える能力、すなわちコミュニケーション力の評価も上がると思うのです。

