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過去2か年の質問事例から考える技術士口頭試験の質問意図と準備

過去記事

新制度下での口頭試験が始まって今年で3年目になります。試問対象コンピテンシーと過去2か年の質問事例の関係を分析すると、何を確認するための質問なのかが見えてきます。令和3年度の口頭試験に向けて、私の最新の知見を基に口頭試験の質問意図と準備についてアドバイスしたいと思います。

 

受験動機や業務経歴が問われる意味

口頭試験では、冒頭に受験の動機や業務経歴の説明を求められる場合があります。この場合、受験部門・科目と業務経歴の整合に疑問を持たれていると考えた方が良いでしょう。

口頭試験では、問題解決能力・課題遂行能力に関して、実務の中で複合的な問題についての調査・分析及び解決のための課題を遂行した経験を確認することになっています。つまり、口頭試験では、実務経験から問題解決・課題遂行の実践能力を確認しているのです。

この問題解決・課題遂行の実践能力は、筆記試験の概念・出題内容にも書かれている通り、技術部門・選択科目の観点から課題を抽出して解決策を提示する能力です。ですから、試験官は、受験部門・選択科目と業務経歴の整合に疑問がある場合は、本人の説明を聞いて疑いを晴らす必要があります。

受験の動機や経歴説明を聞いても、採点対象のコンピテンシーは確認できません。受験部門・選択科目と業務経歴の整合を確認できてはじめて、本題のコンピテンシーの確認に移っていきます。

口頭試験の冒頭で、「受験の動機を聞かせてください」、「業務経歴と詳述業務を3分で説明してください」と問われたら、自分の成長過程と受験部門・選択科目の妥当性を意識して回答した方が良いと思います。

 

コミュニケーションに関する質問意図と準備

技術士試験において問われるコミュニケーションとは、リスクコミュニケーションだと考えておくべきです。

技術士に求められるリスクコミュニケーションとは、業務の計画・実施・結果の各段階でのリスクに関する正確な情報を、発注者、他分野の専門家、企業の経営者、一般市民などの利害関係者間で共有して相互に意思疎通を図ることです。

口頭試験では、「技術士にコミュニケーション能力が求められるのはなぜだと思いますか?」と質問されます。これに対して、「高度な科学技術を扱う技術士は、業務で知り得た様々なリスクを、多様な利害関係者間で共有して、相互理解のもとで合意形成を図るために必要です」と答えれば良いでしょう。

詳述業務については、どんなリスク情報を、どの利害関係者に、どういう方法で意思疎通を図ったかを整理しておきましょう。

 

リーダーシップに関する質問意図と準備

技術士に求められるリーダーシップは、多様な関係者の利害調整能力のことです。ここで、多様な関係者については、業務を行う関係者と行わない関係者にかけて捉えると理解しやすいと思います。

業務を行うには、調査・分析・設計・施工などのプロセス毎に専門スタッフが必要で、下請・外注を使うことも多いはずです。このような業務を行う関係者は、それぞれの自分たちの都合や思惑があるはずです。

技術士には、チームリーダーとして、その人たちの都合や思惑を踏まえつつ、それぞれがどのように行動すれば良い結果が得られるかを示し、関係者間の利害を調整できる能力が求められます。

また、実業務では、発注者、経営者、上司、住民などの業務を行わない関係者との利害調整も必要になります。納期を優先する発注者とコストを優先する経営者との利害調整は、多くの技術者が経験していると思います。

口頭試験では、このような利害調整を行った経験を確認されます。詳述業務では、どのような関係者の利害を、どのように調整したのかを説明できるようにしておきましょう。

 

評価に関する質問意図と準備

評価に対する質問は、業務遂行におけるリスクを評価する能力と活かす能力を確認するものです。

普段の業務におけるリスク評価は、レビューや検証という名目で実践しているはずです。技術士として業務を行う場合、自らレビューや検証をして次にどう進むかを判断しなければなりません。詳述業務の記載内容から、それが読み取れない場合は、口頭試験で技術的内容の質問を多く受けることになると思います。「どうやって決定した?」、「どういう方法で検証した?」などの質問を想定して準備した方が良いでしょう。

また、リスクを活かすとは、良い面は標準化して活かし、悪い面は改善して活かすことです。この点に関して、口頭試験では、「詳述業務を現時点でどう評価しているか」、「成功や失敗を次にどう活かしたか」といった質問を受けます。これまでの業務を振り返り、成功や失敗が次に活きた事例を紹介できるように準備しておきましょう。

 

マネジメントに関する質問意図と準備

技術士に求められるマネジメントには、プロセスマネジメント、リスクマネジメント、リソースマネジメントの3つがあります。このうち、口頭試験で多く質問されるのは、プロセスマネジメントとリソースマネジメントです。リスクマネジメントは、コミュニケーションや評価に関連して質問されるので、マネジメントの確認で質問されることは少ないようです。

プロセスマネジメントに関する質問では、品質・コスト・納期・生産性の管理をどのように工夫したかが問われます。リソースマネジメントに関する質問では、要求事項を満足するために人員・設備・金銭・情報等の資源配分をどのように工夫したかが問われます。

この2つのマネジメントに関して、どのような問題があり、それを改善するためにどのように工夫したのかを、普段の業務や詳述業務について整理しておきましょう。

マネジメントに関しては、「普段の業務の中でマネジメントをどのように発揮していますか?」というような漠然とした質問になりがちです。「ICT技術や外部委託の活用で最適化を図っている」、「担当者の情報共有により問題点を早めに把握し、資源の配分調整を効果的に行っている」といった回答ができるようにしておきましょう。

 

技術者倫理に関する質問意図と準備

技術者倫理のコンピテンシーには、公衆の利益の優先及び持続性の確保、法令・制度の遵守、責任範囲の明確化の3つの倫理的な行動規範が示されています。

公衆の利益の優先に関しては、「技術者倫理で最も重視していることは?」、「発注者や会社から倫理違反を強要されたら?」などの質問を受けます。これらの質問は、会社の利益と公衆の利益の相反関係に直面した際に、会社内で公衆の利益を最優先に考えた行動が取れるかを確認するものです。必ず聞かれるので、内部告発のあり方も含めて、しっかり準備しておくべきです。

法令・制度の順守に関する質問事例は少ないと思います。しかし、「品質確保と環境保全が両立できない場合、どのように行動しますか?」など、品質と環境のどちらの法令・基準を順守するかといった質問事例もあるので、答えを準備しておいた方が良いでしょう。

責任範囲の明確化に関しては、その必要性を問う質問を受けます。「技術士法第46条に名称表示義務が定められているのはなぜか?」といった質問を受けるので、倫理的観点から回答できるように準備しておきましょう。

 

継続研さんに関する質問意図と準備

継続研さんに関する質問は、初期の能力開発(IPD)に対する取組姿勢や合格後の継続研さん(CPD)に対する基本的な理解を確認するものです。

初期能力開発(IPD)に関する質問では、修習技術者としての修習活動内容や修習技術者への指導内容が問われます。「修習技術者のための修習ガイドブック」の内容をしっかり確認して、技術士に必要なコンピテンシーをどのように高めてきたかを答えられるように準備しましょう。

継続研さん(CPD)に関する質問では、研さんの必要性、研さんの形態、論文発表の経験、他の資格取得など確認される可能性が高くなります。技術士法第47条の2にある資質向上の責務とCPD制度の理解度が問われるので、しっかり理解しておく必要があります。また、論文発表経験が無くても、合格後に発表を考えている論文があれば、答えられるように準備しておくと良いでしょう。

令和3年9月から新たなCOD制度が始まりましたが、口頭試験で新制度の内容を問われることはないと思います。新たなCPD制度では、基準CPDとして年間20時間、推奨CPDとして年間50時間の2つの目安が示されるようになっています。もし、「合格後、年間どれくらいのCPDを目指しますか」と聞かれれば、これまで通り「50時間を目標にする」と答えれば良いと思います。

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