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R4必須科目Ⅰ-1インフラDX推進の解答例を作成してみた

筆記試験

R4必須科目Ⅰ-1のDXの推進について、私なりに解答例を作成してみました。解答を導く考え方も詳しく示しています。今年度の受験で上手く書けなかった人、来年度の受験を考えている人には参考になると思います。ぜひ読んでみてください。

 

R4必須科目Ⅰ-1の問題文

<R4建設部門 必須科目Ⅰ-1>
 我が国では,技術革新や「新たな日常」の実現など社会経済情勢の激しい変化に対応し,業務そのものや組織,プロセス,組織文化・風土を変革し,競争上の優位性を確立するデジタル・トランスフオーメーション(DX)の推進を図ることが焦眉の急を要する問題となっており,これはインフラ分野においても当てはまるものである。
 加えて,インフラ分野ではデジタル社会到来以前に形成された既存の制度・運用が存在する中で,デジタル社会の新たなニーズに的確に対応した施策を一層進めていくことが求められている。
 このような状況下,インフラへの国民理解を促進しつつ安全・安心で豊かな生活を実現するため,以下の間いに答えよ。
(1)社会資本の効率的な整備,維持管理及び利活用に向けてデジタル・トランスフオーメーション(DX)を推進するに当たり,技術者としての立場で多面的な観点から3つ課題を抽出し,それぞれの観点を明記したうえで,課題の内容を示せ。
(2)前間(1)で抽出した課題のうち,最も重要と考える課題を1つ挙げ,その課題に対する複数の解決策を示せ。
(3)前問(2)で示したすべての解決策を実行して生じる波及効果と専門技術を踏まえた懸念事項への対応策を示せ。
(4)前間(1)~(3)を業務として遂行するに当たり,技術者としての倫理,社会の持続性の観点から必要となる要点・留意点を述べよ。

前文には、インフラDXに関する国交省資料で頻繁に使われていたフレーズが並んでいます。しかし、解答者自身の問題解決能力を確認する試験ですから、国交省資料に沿った解答にする必要はありません。各設問の形式も従来通りであり、比較的解答しやすい問題だと思います。

 

R4必須科目Ⅰ-1の解答例(by onowith)

1.インフラDX推進の課題抽出
 以下、安全・安心で豊かな生活の実現に向け、インフラの整備・維持管理・利活用の3つの観点から技術的課題を抽出する。
 ①整備の課題:国土強靭化関連データの連携強化
 自然災害の激甚化・多発化が今後さらに進む中、デジタル技術により防災施設の強靭化や早期の避難行動をさらに高度化し、公衆の安全を確保する必要がある。そのためには、管理主体ごとに分散しているインフラ・人流・物流・地形・気象など、国土強靭化に関連するデータの連携強化が課題として抽出される。
 ②維持管理の課題:3DデータによるCIMの推進
 インフラ老朽化が進む中、安心して日常生活・社会経済活動を行うには、老朽化したインフラを確実に修繕し、更新していくことが必要となる。そのためには、建設分野の生産性向上が不可欠であり、点検・診断・設計・修繕・更新のプロセスにおいて、3Dデータを用いるCIMの推進が課題として抽出される。
 ③利活用の課題:インフラ機能向上とスマート化
 IoT/AIやEVの普及により、日常生活や経済活動の在り方が変化している中、豊かな生活を実現するためには、既存インフラの機能もニーズの変化に対応していく必要がある。そのためには、デジタル時代の社会基盤として利活用しやすいように機能を向上させ、スマート化していくことが課題として抽出される。
2.最も重要と考える課題と解決策
 最も重要な課題は、「①整備の課題:国土強靭化関連データの連携強化」と考える。
 その理由は、防災・減災対策やインフラ強靭化対策の遅れが人命や地域経済に重大な影響を及ぼすからであり、各データのデジタル化が進んでいる状況から技術的に早期実現が可能と判断されるからである。
 以下、最重要課題に対する3つの解決策を提示する。
 解決策1:データ連携するDXエリアの設定
 地震災害や風水害の危険度は地域ごとに異なり、大都市を抱える地域と過疎化地域では、インフラ整備状況や被害規模も大きく異なる。そのため、想定される災害リスクに応じて、ローカル5G等で強靭化関連データを連携するDXエリアを設定する。これにより、防災インフラのエリアマネジメントが推進できる。
 解決策2:DXエリア内のデータ連携基盤の構築
 DXエリア内のデータは、国、各自治体、民間団体などの関係機関ごとに異なった形式で集積されている。これらの多様なデータを相互連携させるために、DXエリア内にデータ連携基盤を構築する。これにより、社会基盤と公共・民間サービスのデータが連結され、強靭化関連データの利活用が推進できる。
 解決策3:全国DXエリアのネットワーク化
 大規模な気象災害や大規模地震災害に対しては、広域での防災対策や災害対応が必要となる。そのため、全国版のプラットフォームや各地域に形成したDXエリアをネットワークで連結する。これにより、広域ブロックで連動した強靭化対策や災害時の早期対応が可能となり、防災情報のオープン化も推進できる。
3.波及効果と懸念事項への対応策
 ①波及効果
 解決策を実行することによるプラス波及効果としては、Society 5.0の基盤整備が進むことが挙げられる。マイナス効果としては、AI/ロボット依存による建設技術者の判断力低下や現場経験の減少が挙げられる。
 ②懸念事項への対応策
 マイナス波及効果の顕在化により、建設分野での技術開発力や現場対応力が低下し、災害対応や維持管理に支障が生じることが懸念される。その対応策として、VR/MRによる技術者育成システムや現場実務経験機会の確保などを、建設技術者育成制度に導入する。
4.技術者倫理・社会の持続性に必要な要点・留意点
 インフラDXの推進業務において、建設技術者に必要な倫理要点は、地域住民の安全性や利便性が最優先となるよう、クライアントやITベンダーとの利害調整を行うことである。
 また、社会の持続性に必要な留意点は、グリーンインフラの導入を積極的に検討し、スマートでグリーンな脱炭素社会の基盤づくりを意識することである。

課題抽出では、最初に3つの観点を説明し、見出しでどの観点からの課題かがわかるようにしてみました。解決策は、解決手順のようになってしまったのですが、現実的解決策を提示したつもりです。懸念事項には、システム停止やサイバー攻撃などが思い浮かびましたが、DX推進では当然考える事なので書く必要は無いと判断しました。倫理の解答では、設問(1)~(3)の業務遂行への意識を見せるために、インフラDXの推進業務において」という文言を入れてみました。

 

解答例を作成するにあたっての考え方

出題テーマから複合的な問題を考える

出題テーマは、設問(1)の前半に書かれている、「社会資本の効率的な整備,維持管理及び利活用に向けたDXの推進」です。何のためにDXを推進するのかと言えば、前文の最後に書かれている、「安全・安心で豊かな生活を実現」するためです。
必須科目Ⅰで解決プロセスが問われる複合的な問題は、出題テーマの逆の不都合な現状を考えれば特定することができます。つまり、今回の必須科目Ⅰ-1では、「インフラの整備・維持管理・利活用に向けたDXが進まず、安全・安心で豊かな生活が実現できない」という現状を複合的な問題と捉えて、その解決プロセスを解答していくようにします。

 

複合的な問題の解決目標を3つの観点から具体化する

上記のように複合的な問題を捉えたら、解決目標である「安全・安心で豊かな生活」という曖昧な言葉の意味を、より具体的にはっきりさせておきます。複合的な問題の解決目標が曖昧だと解決プロセスも不明確になり、内容がわかり難い答案になってしまいます。
今回は、出題テーマに書かれているインフラの整備・維持管理・利活用の3つの観点から、解決目標の「安全・安心で豊かな生活」をもう少し掘り下げて考えてみます。そうすると、次のように解決目標が具体的にイメージできます。
①インフラ整備の観点→自然災害に対する安全を確保する
②維持管理の観点→確実なメンテナンスで安心を確保する
③利活用の観点→機能を向上させて豊かな生活を実現する

 

目標達成の障害となる問題点から課題を抽出する

次に、目標達成の障害となっている現状の問題点を考え、それを解消するための課題を抽出していきます。出題テーマにあるように、DXは効率化のためですから、目標でイメージした自然災害、メンテナンス、インフラ機能に関して非効率な現状を考えれば、問題点は浮かび上がってきます。課題は、その問題点を解消するためにやるべきことを考えていけばよいわけです。

①インフラ整備の観点からの問題点と課題
自然災害に対しては、国土強靭化に関連して様々な施策が進められています。しかし、インフラ・人流・物流・地形・気象など、強靭化に必要な関連データが分散して管理されているため、連携した対応が取り難いのが現状の問題点です。
よって、インフラ整備の観点からの課題としては、「国土強靭化関連データの連携強化」が抽出できます。

②維持管理の観点からの問題点と課題
インフラメンテナンスに関しては、インフラ点検や劣化診断はある程度進んでいます。しかし、点検・診断・設計・修繕・更新が依然として2Dデータで行われているため生産性が上がらず、必要な修繕や更新工事が進まないのが現状の問題点です。
よって、インフラ維持管理の観点からの課題としては、「3DデータによるCIMの推進」が抽出できます。

③利活用の観点からの問題点と課題
インフラ機能については、IoT/AIの進展やEVの普及などでニーズが多様化しています。しかし、既存インフラの機能がニーズに対応しておらず、デジタル化も進んでいないため利活用し難いのが現状の問題点です。
よって、インフラ利活用の観点からの課題としては、「インフラ機能向上とスマート化」が抽出できます。

 

影響度と実現性から最重要課題を選定する

最重要課題は、人命への影響度が大きく、実現性が高いことから考えて、③インフラ整備の観点から抽出した「国土強靭化関連データの連携強化」を選定します。大規模水害や巨大地震は、一瞬で多くの人命を奪うため影響度が一番大きく、国土強靭化の施策は緊急性が高いと言えます。
国土強靭化の関連データの多くは電子化され、各機関でデータベース化も進んでいます。しかし、各データベースのフォーマットの相違などにより、データ間の連携が取れていないのが現状です。今日のデジタル技術の進展から考えると、フォーマットの異なる関連データの連携はそれほど難しいことでは無く、早期に実現できると思います。

 

強靭化関連データの連携強化策を3つ考える

自然災害リスクは、地域ごとに異なるので、強靭化関連データも地域ごとに連携強化すべきです。また、全国の強靭化関連データ量は膨大なので、関連性のないデータを省いた方がデータ連携はしやすくなります。
例えば、沖縄県石垣島の強靭化を進める場合、台風関連のデータ連携は必要ですが、首都直下地震や豪雪データを連携する必要性はありません。石垣島のようにエリアを限定すれば、ローカル5Gを利用したデータ連携基盤も構築しやすく、データ連携基盤をインターネットに接続することで、中央省庁やエリア間とのネットワーク化もできます。
コンパクト+ネットワークやデジタル田園都市と同じようなイメージで、連携強化する地域のDXエリアを設定して、連携強化の地域基盤を構築し、全国の地域基盤をネットでつなぐという3つの解決策を提示することにしました。

 

解決策実施後のインパクトを考える

波及効果と懸念事項の対応策は、解決策を実行した結果による影響をアセスメントして、派生が予想されるリスクをどのようにコントロールすべきかを考えていきます。波及効果はIEA-PCの原文では“impact“と表記されているので、結果に対する影響評価と理解する方がコンピテンシーの定義に合います。
影響には、通常プラス・マイナスの両面があるので、Society 5.0の基盤構築のプラス面とデジタル依存による建設技術者の能力低下のマイナス面を挙げてみました。
DXのみで災害は防げないので、災害復旧や維持修繕には建設技術者の判断力が必要になります。ですから、マイナス面が過度に影響しないように、リスクコントロールとして現場判断力が低下しないように育成システム導入が有効かと思います。

 

公衆優先原則と持続性原則の認識を示す

最後の設問(4)は、技術者倫理への認識を確認する設問ですから、公衆の安全を最優先する公衆優先原則、自然環境の持続性を確保する持続性原則の認識を示すようにします。
DX推進なのでIT企業の技術協力は絶対必要ですし、データ基盤構築やシステム構築の際には、IT企業への発注も行われます。そのため、仮に発注者から特定企業のシステムで検討するように指示されても、技術士としては地域住民の安全を最優先に考えてシステム内容を検討し、問題点を改善するように発注者やIT企業と調整していく必要があります。
また、必須Ⅰ-2のテーマにもなっていた脱炭素社会の実現に向けて、強靭化施策でもグリーンインフラの導入は不可欠と考えます。そのため、強靭化に向けたDX推進業務では、デジタルとグリーンの両面から有効性を検討していく必要があると考えます。

 

おわりに

必須科目の試験時間は120分あり、私の経験では構想に30分、書出しに90分の時間を取れば、余裕をもって答案を作成できるはずです。書くことが決まれば、1枚30分ペースで3枚手書きするのは、それほど難しくありません。問題は、30分で合格答案を構想できるかどうかです。
30分で合格答案を構想できるようになるには、複合的な問題の解決手順に沿って練習を積み重ねるのが一番良い方法だと思います。はじめは上手くできなくても、一旦コツをつかんでしまえば必ずできるようになります。
コツをつかむためには、サンプルを自分なりにアレンジして練習するのも一つの方法です。今回示した解答例を使って、違う観点から課題を抽出してみるとか、違う最重要課題の解決策を提示してみるとか、違う答案構成を考えるだけでもコツがつかめるようになると思います。

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