技術士第二次試験に合格するためには、受験申込書の書き方や筆記試験の解答方法を知っておくことが極めて重要です。令和5年度の技術士受験に向けて、これらの重要ポイントについて解説していきます。
令和5年度第二次試験のスケジュールを確認
まずは、令和5年度の筆記試験までのスケジュールを確認しておきましょう。日本技術士会のHPには受験者向けのスケジュールしか公開されていませんが、試験官のスケジュールも決まっています。両者を並べると概ね次のようになります。
受験申込書の受け付け締め切りは4月17日です。受験申込書は、書類不備や記載漏れなどで再提出を求められる場合でも、受付締切り日までに提出しなければなりません。また、初受験の人は、第一次試験合格証、JABEE修了証書、監督内容証明書などの添付書類の準備に時間を要するので、早めに準備しておきましょう。
申込書の様式は、3月27日から日本技術士会のHPからダウンロードできるようになります。様式自体は昨年と大きく変わらず、Excel版の様式をプリントアウトして提出すると思います。実務経験証明書の記載内容は、口頭試験の合否に大きく影響しますから、安易に作成しないよう注意が必要です。
筆記試験は、例年通り7月第3月曜日の「海の日」に実施されます。コンピテンシーを確認する筆記試験ですから、高度な専門知識を詰め込むだけでは合格できません。キーワードをたくさん覚えるより、複合的な問題の解決プロセスをマスターする方が、合格への近道になります。そのことを意識して勉強プランを立てると良いでしょう。
筆記試験の問題は、作問委員が3月から5月の約3カ月間で作成します。建設部門では、3月までに決定された近年の国土交通省施策が、出題テーマとなる可能性が高くなります。令和5年4月以降のトピックスが出題テーマになることはありません。しかし、筆記試験で有効な解決策を提示できるように、最新の技術動向は常に把握しておきましょう。
筆記試験の採点は、採点委員が約1ヵ月間で行います。作問委員には、出題の目的や採点基準等を採点マニュアルに明示することになっています。なお、作問員と採点員は同じメンバーが通例のようです。
受験申込書作成における5つの重要ポイント
申込ポイント1:実務経験証明書には複合的な業務の経歴を記載する
実務経験証明書には、技術士にふさわしい業務を書くようにします。技術士にふさわしい業務は、技術士法の定義にある「専門的応用能力を必要とする業務」と考えるより、国際エンジニア連合(IEA)が定義する「複合的な業務(Complex Activities)」だと捉えた方が良いと思います。
何故なら、技術士試験で確認しているコンピテンシーは、IEAのプロフェショナル・コンピテンシー(PC)を満たすように作成されているからです。しかし、文科省はIEA-PCの定義する複合的な業務を技術士法第2条で定義する業務に当ると解釈して、技術士法を改正していません。そのため、受験申込み案内では、未だに専門的応用能力を必要とした業務経歴を書くよう求めています。
複合的な業務の定義は、IEA-GAPC(Graduate Attributes & Professional Competency Profiles)に書かれており、最新版はここからダウンロードできます。原文・翻訳版のどちらも難解な言葉が並んでいて理解し難いと思います。私が理解している限りでは、IEAの定義する複合的な業務とは、次の5つの特性を複数又は全部含む業務のことです。
複合的な業務に含まれる5つの特性
特性1:多様なリソースが必要
特性2:相反事項の適正化が必要
特性3:革新的解決策の導出が必要
特性4:予測困難で重大な結果を招く
特性5:経験を超えて利用拡大が可能
(IEA-GAPC2021よりonowith要約)
特性1の多様なリソースとはヒト・モノ・カネ・データ・ソフトウェアなどのことで、特性2の相反事項とは品質・コスト・納期などのことです。いずれも業務遂行にあたっては、意思疎通・利害調整・資源配分が必要になってきます。
特性3の革新的解決策の導出が必要になるのは、解決マニュアルが存在していないからです。特性4の重大な結果とは公衆の安全や自然環境への悪影響と考えれば良いでしょう。特性5の経験を超えて利用拡大を可能とするためには、原理に基づく解決アプローチが必要になります。
いずれの特性も、技術士に求めるコンピテンシーに含まれる内容です。つまり、実務経験証明書に書くべき複合的な業務とは、コンピテンシーを駆使して問題を解決した業務だと考えれば良いでしょう。
申込ポイント2:あなたのコンピテンシーが見える業務を選定する
口頭試験では実務経験証明書を参考にして、コミュニケーション・リーダーシップ・評価・マネジメントの4つのコンピテンシーを発揮した実務経験を確認されます。ですから、チームで行った業務であっても、あなた自身がどのようにコンピテンシーを発揮したかを伝えなくてはいけません。
有名プロジェクトに参加したことをアピールするために、実際の工事名や施設名を書く人もいますが、書いたからといってあなたのコンピテンシーが認められるわけではありません。大きなプロジェクトであれば、あなたの果たした役割は小さいと判断されかねません。プロジェクトにおける役割を上手く答えられなければ、あなたの成果と見なされず不合格となる危険性もあります。
逆に、若い技術者が上司の命令で行った小さな業務でも、入力データ・計算ソフト・類似事例など、何がしかのリソースを利用しているはずです。そして、上司や他の担当者とコミュニケーションを取りながら、アウトプットを評価し、スケジュールやコストを調整したのであれば、自分の責任を果たすためにリーダーシップを発揮し、業務をマネジメントしたことが認められます。
あなたが社内で生み出した成果は小さいかもしれませんが、その成果を使って大きな意思決定をする上司や発注者が判断ミスをしないように、コンピテンシーを最大限駆使して努力した業務を洗い出してみましょう。それらの業務は、上司や発注者の正しい判断を導き、あなたの小さな成果は公衆の安全や持続性確保につながったと言えるはずです。
申込ポイント3:業務内容は複合的な問題の解決が伝わるように書く
経歴票の5業務には、複合的な問題を解決した内容が伝わるように書くことがポイントになります。
複合的な問題を表すには、「安全性、経済性、破壊、保全」などの言葉を使うようにします。これにより、解決が困難で判断ミスにより重大な結果をもたらすことが伝わります。さらに、解決したことを伝えるため、「対策、解決、究明、解明」などの言葉を使うようにします。
さらに、最初の方で「地盤、土質、鋼製、コンクリート、道路、河川、工事、施工、環境」などの言葉を使い、最後を「計画、研究、設計、分析、解析、試験、評価、検討、策定」などの言葉で締めると専門分野の業務を伝えることができます。
それらを組み合わせると、「施工時の安全性確保に向けた対策検討」、「地盤の破壊原因の究明と対策設計」、「環境保全対策の有効性分析と経済性評価」などの表記になります。
経歴票の5業務をこのように書くと、専門分野での複合的な問題を解決した業務であることが伝わるようになります。
申込ポイント4:「業務内容の詳細」には問題解決プロセスを書く
口頭試験では、問題解決能力・課題遂行能力について、「実務の中で複合的な問題についての調査・分析及び解決のための課題を遂行した経験等」を確認することになっています。そのための参考資料とされるのが、720文字以内で書く業務内容の詳細です。
そのため、業務内容の詳細には、複合的な問題を解決したプロセスを書く必要があります。複合的な問題解決のプロセスを伝えるためには、次の7ステップで示すのが有効です。
<業務内容の詳細で示す問題解決プロセス>
①目標設定(要求事項・責任の明確化)
②現状把握(現状調査、データ収集)
③問題分析(データ分析、問題の明確化)
④課題設定(解決の方向性の設定)
⑤対策立案(比較検討、解決策提案)
⑥対策実施(実施結果、実施管理)
⑦結果評価(効果・リスク、改善策の提示)
業務内容の詳細に求められるのは、「わかりやすい問題解決ストーリー」、「問題解決過程の思考プロセス」、「解決策の効果・リスク・改善策」の3つです。そのために、次のようなタイトル構成にして、内容をバランスよく埋めていくのが良いと思います。
<業務詳細のタイトル構成と内容>
【目的、立場・役割】:業務目的、立場と役割
【問題・課題】:問題点分析、課題抽出
【提案・成果】:解決策、得られた成果
【評価・展望】:効果、リスク、改善策
業務内容の詳細では、高度な技術の使用、先進的な技術開発などをアピールしようと考える人は多いと思います。しかし、そこをいくらアピールしても、あなたの問題解決能力・課題遂行能力が伝わらなければ、まったく意味はありません。
申込ポイント5:「専門とする事項」で試験管との相性を良くする
技術士試験に合格するには、筆記試験の採点や口頭試験の面接を行う試験官との相性が重要なポイントになります。試験管との相性を良くするとは、試験管と専門分野を合わせるということです。
受験者の専門分野は、受験申込書の「専門とする事項」で示すことになります。試験管は毎年推薦で決められ、推薦を受ける候補者名簿には「担当する専門分野」を書くようになっています。真実は判りませんが、この2つの書類から受験者と試験官をマッチングさせている可能性は高いと考えます。
ですから、「専門とする事項」は、自分の試験管を決めてもらうためだと割り切って、素直に受験申込み案内などに書かれている「選択科目の内容」から選ぶのが無難です。自分と専門分野が違う試験官に当たって、口頭試験で話がかみ合わずに不合格となるケースもあり得ます。
建設部門では「調査」「設計」「施工」「維持管理・更新」で試験官を振り分けている科目は多いと思います。ですから、専門とする事項に「~の調査・設計・維持管理」などと書いてしまうと、専門分野が違う試験官に当たってしまう可能性が高くなるでしょう。
筆記試験対策における7つの重要ポイント
筆記ポイント1:出題形式と各設問の確認コンピテンシーを把握する
筆記試験問題の出題形式は、技術部門・選択科目を問わず、次のように統一されています。
<必須科目Ⅰの出題形式>
前文:社会的背景、ニーズ・目標
設問(1):多面的観点から課題を抽出し分析
設問(2):最重要課題の選定と解決策の提示
設問(3):解決策の波及効果とリスク対応策
設問(4):課題遂行上の倫理的要件や留意点
<選択科目Ⅱ-1の出題形式>
設問:選択科目的テーマの定義、内容、種類、特徴、原因、機構、対策、方法、課題、留意点
<選択科目Ⅱ-2の出題形式>
前文:業務条件と解答者の立場を設定
設問(1):調査・検討事項とその内容
設問(2):業務手順と留意点・工夫点
設問(3):業務遂行の関係者調整方策
<選択科目Ⅲの出題形式>
前文:社会的背景、ニーズ・目標
設問(1):多面的観点から課題を抽出し分析
設問(2):最重要課題の選定と解決策の提示
設問(3):解決策の波及効果とリスク対応策
各試験問題の設問は、技術士コンピテンシーを確認する設問となっていて、どのコンピテンシーを確認するかは次の表ように決まっています。
筆記ポイント2:解答趣旨が理解できるタイトル構成とする
試験官は、問題を作る作問委員と答案を採点する採点委員に分かれますが、兼務するのが通例になっています。つまり、問題文を作った人が採点もしているということです。試験問題は3月~5月の約3ヵ月間で作成され、答案は9月の約1ヶ月間で採点されます。
試験管の人数は選択科目で違いますが、例えば、建設部門の道路科目の試験官は6人しかいません。道路科目の受験者数は2千人を超えます。その人数分の答案を1カ月で採点するのですから、じっくり読んでもらえると思わない方が良いです。逆に言えば、じっくり読まないと理解できない答案は、不合格の可能性が極めて高いということです。
そこで、合格のためには本文をじっくり読まなくても、解答趣旨を理解してもらえるようなタイトル構成とすることが重要になります。また、課題や解決策は複数提示することになるので、「課題1:〇〇」「解決策1:△△」のように見出しを付けるのも効果的です。
筆記ポイント3:課題や解決策は理由を示して論理的思考能力を見せる
試験管は、「文章が上手いか」「知識があるか」を見ているのではなく、あなたの論理的思考能力を見ています。技術士は、論理的思考に基づき問題を解決する能力を持っていなければなりませんから、答案ではその能力を見せる必要があります。論理的思考能力を見せるために、課題抽出や対策提案では必ず理由を書くことが重要ポイントになります。
いきなり「課題は〇〇である」という書き方は、論理的思考能力が見えないので低評価になります。課題抽出を書くなら、「~の理由から、課題として〇〇を抽出する」「課題として〇〇を抽出する。その理由は~」のように、必ず理由を書かねければ合格できないと考えておくべきです。
課題の抽出理由が書けないのは、問題点を分析していないからで、問題点が見えていないから対策効果の評価はもちろん、波及効果や新たなリスクも評価できていないことになります。
筆記ポイント4:必須科目Ⅰの答案作成プロセスを習得する
必須科目Ⅰでは、技術部門に関する複合的な問題の解決プロセスが問われます。したがって、次のプロセスで答案を作成していくことが、A判定に向けてのポイントになります。
<必須科目Ⅰの答案作成プロセス>
①出題テーマから複合的な問題を特定する。あるいは、複合的な問題の解決目標を設定する。
②前文の内容を踏まえて、現状の問題点・問題要因を分析し、多面的に課題を3つ抽出する。
③国民の安全、社会経済、自然環境に最も悪影響を与える課題を最重要課題として選定する。
④課題は100%解決できないので、極力100%に近づける解決策を多面的に3つ提示する。
⑤解決策実施による波及効果(負の影響)が大きくなり、別途対策が必要になる懸念事項(リスク)と、そうならないための管理対策(リスク対応策)を提示する。
⑥上記の解決プロセスを実行する際に必要な、公衆優先原則と持続性原則に対する倫理観を示す。
A判定答案を作成するには、どうしてそれが課題になるのか、その解決策はどのように有効なのか、なぜそれが懸念事項になるのかなど、理由を論理的に説明することが重要です。
筆記ポイント5:選択科目Ⅱ-1の答案作成プロセスを習得する
選択科目Ⅱ-1は専門知識の問題でから解答にロジックは必要なく、教科書的答えを書けば合格点に達します。選択科目Ⅱ-1の答案作成では、「設問項目に忠実に解答する」、「解答項目のキーフレーズを見せる」、この2つがポイントになります。
<選択科目Ⅱ-1の答案作成プロセス>
①問題文から設問項目を把握する。
②設問項目に対する解答項目を決定する。
③解答項目のキーフレーズを決定する。
④設問項目はタイトル、解答項目は小見出しにして、キーフレーズを入れた説明文を付け加える。
選択科目Ⅱ-1の解答用紙は1枚なので、解答項目は5~8項目で十分です。2~3行の説明文を加えれば、解答用紙の行数は概ね埋まります。答案用紙がスカスカであっても、ぱっと見でキーフレーズの内容が伝わればA判定になります。キーフレーズを伝えるためには、余計な説明を加えないことがポイントです。
筆記ポイント6:選択科目Ⅱ-2の答案作成プロセスを習得する
選択科目Ⅱ-2は、問題文の付与条件を踏まえて、設問(1)(2)(3)を関連付けて解答していくことが、A判定に向けてのポイントになります。
<選択科目Ⅱ-2の解答プロセス>
①前文で与えられた条件を整理し、業務条件の不確定要素を抽出する。
②業務条件を確定するために必要な調査項目を提示する。
③リスク判断の検討項目を示し、リスク対応策の実施手順を提示する。
④リスク削減の留意点と工夫点を説明する。
⑤対応策に影響する関係者を抽出し、悪影響を回避する調整法を提示する。
①②が設問(1)の解答、③④が設問(2)の解答、⑤が設問(3)の解答に対応します。
選択科目Ⅱ-2は、マネジメントとリーダーシップのコンピテンシーを確認しますが、コンピテンシーを意識しすぎると上手く書けない場合が多いと思います。上記のプロセスで解答していけば、コンピテンシーが見える答案を作成できるようになります。
筆記ポイント7:選択科目Ⅲの答案作成プロセスを習得する
選択科目Ⅲは、問題文で解決すべき複合的な問題が与えられます。また、専門技術に特化した解答を求められるため、最重要課題の選定では、必要性と実現性・安全性・経済性などの要求事項の相反関係からの考察していくことがポイントになります。
<選択科目Ⅲの答案作成プロセス>
①問題文で与えられている複合的な問題を把握し、解決目標を設定する。
②現状の問題点・問題要因を分析し、多面的に課題を3つ抽出する。
③国民の安全、社会経済、自然環境に最も悪影響を与える課題を、最重要課題として選定する。
④課題は100%解決できないので、極力100%に近づける解決策を多面的に3つ提示する。
⑤解決策実施による波及効果(負の影響)が大きくなり、別途対策が必要になる懸念事項(リスク)と、そうならないための管理対策(リスク対応策)を提示する。
選択科目Ⅲでは、自分の得意分野の問題が出ると、高度な技術的知識やノウハウを見せようとして、解決策の説明が多くなってしまいがちです。技術的知識やノウハウを採点しているわけではないので、問題解決の思考プロセスを見せることを忘れないように注意しましょう。



