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R6技術士試験考察:建設必須科目の問題分析と解答の考え方

筆記試験

R6建設部門必須科目の問題文を分析して、解答構成の考え方を解説していきます。問題文は技術士会HPに掲載されているので省略してます。

 

出題テーマと設問構成について

建設-必須科目の出題テーマは、Ⅰ-1が連結型国土構築、Ⅰ-2が復旧復興DXでした。どちらも最近の国土形成計画やインフラDX施策を反映したテーマなので、想定内の受験者も多かったと思います。

設問構成は例年通りでしたが、課題抽出にあたって以下の条件を付けられていた点が例年と異なっていました。

条件1:解答の際には必ず観点を述べてから課題を示す
条件2:投入できる人員や予算に限りがあることを前提にする

条件1は、わざわざ(※)付きで書かれているので、これを守らないと意思疎通能力(コミュニケーション)で大きく減点されそうです。この条件は、個人の課題抽出能力を採点しやすくするのが目的かもしれません。現状分析する観点を先に述べさせることで、分析結果からの抽出課題が明確になります。

条件2を付けた意図は定かではありませんが、従前のやり方では人員・予算が不足するのは当たり前なので、やり方を変えるための課題抽出に誘導したのかもしれません。そうであるなら、前提を踏まえて「省力化の観点から〇〇の自動化が課題」としなければ高評価は得られません。前提を観点とした「人員不足の観点から〇〇の省力化が課題」のような解答は、減点対象になると思われます。

 

Ⅰ-1の問題分析と解答の考え方

前文と設問(1)から出題意図を把握する

前文の第1段落には、第三次国土形成計画は人口減少や社会経済の変化に対応するため、拠点連結型国土の構築を進める計画としたことが書かれています。第2段落の前半には、連結型国土構築に向けて、シームレスな連結強化、持続可能な生活圏の再構築が計画で示されたとと書かれています。

第2段落の後半に書かれている「持続可能で暮らしやすい地域社会」が、問題解決の目標です。逆に言うと、現状は「持続不可で暮らしにくい地域社会」なので、目標と現状のギャップをどのように縮めるかが問われていると捉えることができます。

設問(1)の「全国的なネットワークを形成するとともに地域・拠点間の連結及び地域内ネットワークの強化を目指す」とは、ざっくり言うと連結型国土構築を目指すということです。つまり、目標である持続可能で暮らしやすい地域社会を実現するための方策が、連結型国土構築だということです。

そう考えると、設問(1)では、目標達成の方策である連結型国土を構築するためのインフラ整備上の課題抽出を問われていると理解できます。

 

現状分析から課題抽出の考え方と書き方

現状は「持続不可で暮らしにくい地域社会」なので、持続不可で暮らしにくい要因を分析します。要因分析の多面的観点は、前文の「経済・持続・生活」のワードをヒントに「経済成長」「自然災害」「地域生活」の3つとします。

地域の経済成長を継続するには、地域特性を生かした観光産業や輸出産業などの成長が不可欠です。そのためには、移動時間の短縮、定時性の確保、生産活動の効率化・高度化などを下支えするインフラ整備を進める必要があります。このように経済成長の観点からは、交通インフラの整備が課題として抽出できます。

日本は地震災害や気象災害の発生リスクが高く、大規模災害によりネットワークが寸断されると地域経済活動の持続性が失われます。そのため、地域社会やネットワーク基盤の耐災害性を強化するインフラ整備を進める必要があります。このように自然災害の観点からは、防災インフラの整備が課題として抽出できます。

人口減少が進む地域では、近隣に商店・病院・保育所・学校が無くなり、地域での生活が困難となります。そのため、人口減少下でも地域で安心して暮らし続けられるよう、生活環境の質を向上させるインフラ整備を進める必要があります。このように地域生活の観点から、生活インフラの整備が課題として抽出できます。

観点を述べてから課題を示すには、次のようなタイトル構成にして、観点からの分析内容を先に説明して、最後に課題を示せば良いと思います。

1.多面的観点からの課題抽出
(1)経済成長の観点からの課題抽出
地域の経済成長を継続するには・・・のインフラ整備を進める必要がある。このように経済成長の観点からは、交通インフラの整備が課題として抽出できる。
(2)自然災害の観点からの課題抽出
(3)地域生活の観点からの課題抽出

 

最重要課題の選定と解決策の考え方

抽出した3つの課題は相互に影響し合っています。連結型国土構造を形成するのに、交通インフラを整備しなければネットワーク化できないし、防災インフラを整備しなければ地域もネットワークも機能維持できません。地域の生活インフラを整備しなければ、ネットワークを構築する地域そのものが消滅していきます。

どの課題解決が目標達成に最も大きく影響すると考えるかで、最重要課題の選定は違ってきます。つまり、最重要課題の選定理由は、「持続可能で暮らしやすい地域社会の実現に最も影響するため」ということになります。

最重要課題に対する解決策は、単にメニューを提示するだけではなく、解決目標の「持続可能で暮らしやすい地域社会」の構築への有効性を説明するようにします。

例えば、「高規格道路のミッシングリンク解消」を解決策として提示する場合、大都市圏への移動時間の短縮、災害時の物資輸送の円滑化、観光産業の振興など、暮らしやすい地域社会構築への有効性を説明します。

また、「流域治水の推進」を解決策として提示する場合は、洪水調節による地域内ネットワークの保全、貯水池・遊水池整備による氾濫リスクの削減、安全エリアでのまちづくりなどの有効性を説明します。

 

波及効果・懸念事項対策、技術者倫理の考え方

設問(3)では、波及効果と懸念事項対策を問うパターンです。波及効果にはプラス・マイナス両面ありますが、懸念事項の対策を解答するので、マイナス波及効果を考えるようにします。

例えば、解決策をすべて実行すると暮らしやすい地域社会が構築されるので、他の地域からの移住者が増加するプラス波及効果があります。一方で、移住者が増えることで多様な価値観が混在するマイナス波及効果もあります。そのため、定住者と移住者の価値観の違いにより、地元の伝統的文化が失われる懸念事項が挙げられます。

この懸念事項に対して、歩道空間や堤防空間を公共オープンスペースとして提供し、伝統的文化の継承や新たな文化を創造する、地域コミュニティーの場として活用する対応策が考えられます。

技術者倫理・持続性の観点からの要件・留意点としては、限られたリソースを有効に活用するため地域間や分野間でリソース投入の調整を行うこと、地域固有の自然環境や景観の保全に配慮してインフラ整備を進めること、などが挙げられます。

 

Ⅰ-2の問題分析と解答の考え方

前文と設問(1)から出題意図を把握する

前文の第1段落には、日本は大規模災害の発生リスクが高いが、復旧復興に投入できる人員・予算のリソースは限られるので、DXの取り組みを進めていることが書かれています。

第2段落では、これからは発災前の防災減災DXに加えて、発災後の復旧復興DXが不可欠だとしています。復旧復興DXが不可欠な理由は、国民生活を一日も早く取り戻すためだとしています。その上で、第3段落で今後起こり得る大規模災害に向け復旧復興DXについて問うとしています。

これら前文の内容から、今回の解決目標は、「安全安心な生活をより早く安く復興する」だと解釈できます。

設問(1)には、迅速かつ効率的な復旧復興を進めるためのDX活用と書かれています。DXは、デジタル技術を活用した生産プロセスの転換を意味する言葉です。そのため、この問題の出題意図は、「デジタル技術を使って従来の復旧復興プロセスをどう転換していくか」だと捉えることができます。

 

現状分析から課題抽出の考え方と書き方

DXの課題抽出なので、従来の復旧復興プロセスを現状として分析します。災害復旧復興プロセスは、大規模災害でも「初動対応⇒災害申請⇒本復旧工事⇒維持管理」のプロセスで実施されています。

このうち維持管理は別テーマなので除外して、残りの3つのプロセスについて、デジタル技術を活用して迅速化・効率化できる要素を分析します。よって現状分析する観点は、「初動調査」「災害申請」「復旧工事」の3つとします。

大規模災害の初動調査では、被害が広域かつ甚大であるため、災害申請に向けた現地測量と2次元図面の作成に多くの時間とコストを要しています。そのため、これらをデジタル技術の活用で迅速化・効率化していくことが必要になります。このように初動調査の観点からは、現地測量の3D計測化が課題として抽出できます。

大規模災害では災害申請の個所数が膨大になりますが、申請資料作成、専門員視察、本省事前打合せ、災害査定という段階的な手続きを踏むため、多くの時間とコストを要しています。そのため、これらをデジタル技術で迅速化・効率化していくことが必要になります。このように災害申請の観点からは、申請手続きのデジタル化が課題として抽出できます。

大規模災害の復旧工事では、多区間で多種にわたる復旧工事が必要になるため、多くの期間とコストを要しています。東日本大震災では、復興期間10年で約8兆円の公共事業予算を要しています。そのため、長期間・高コストとなる復旧工事をデジタル技術で迅速化・効率化していくことが必要になります。このように復旧工事の観点からは、建設現場の省人化・省力化が課題として抽出できます。

観点を述べてから課題を示すには、次のようなタイトル構成にして、観点からの分析内容を先に説明して、最後に課題を示すと良いでしょう。

1.多面的観点からの課題抽出
(1)初動調査の観点からの課題抽出
大規模災害の初動調査では・・・災害申請に向けた現地測量から図面作成の迅速化・効率化が必要となる。このように初動調査の観点からは、現地測量の3D計測化が課題として抽出できる。
(2)災害申請の観点からの課題抽出
(3)復旧工事の観点からの課題抽出
 

最重要課題の選定と解決策の考え方

抽出した3つの抽出課題は、復旧復興プロセスの過程上の課題です。ですから、解決目的の「安全な生活をより早く安く復興する」に対して、どの過程が最も大きく影響すると考えるかで最重要課題の選定は異なります。どの課題を選ぶにせよ、選定理由は「解決目標の達成に最も影響すると考えるから」ということになります。

初動調査は、被災直後の地形データを得る唯一の機会であり、設計・施工段階の品質につながるため、「安全な生活」へ大きく影響します。災害申請では、自治体の処理能力を超えと、工事発注の遅れにつながるため、「より早く」に大きく影響します。復旧工事は、全体プロセスの中で予算を占める割合が大きいので、「より安く」に大きく影響します。

最重要課題に対する解決策は、メニューの提示だけではなく、解決目標の「安全な生活をより早く安く復興する」ことへの有効性を説明します。例えば、初期調査を選定して「UAV/LiDAR計測」を提示する際には、「短時間に被災断面の点群データが取得可能となる」などの説明を加えます。

また、災害申請を選定して「リモート査定」を提示する際には、「自治体の負担軽減により復旧工事の早期実施が可能となる」、復旧工事を選定して「自動施工・遠隔施工の実施」を提示する際には、「安全性と効率性の両立が可能となる」などの説明を加えます。

 

新たなリスクと対応、技術者倫理の考え方

解決策をすべて実行するには、すべての面でデーターサバーやインターネットを使う必要があります。そのため、システム障害による復旧復興プロセスの停止やサイバー攻撃によるデータ流出の新たなリスクが生じ得ます。この新たなリスクに対して、セキュリティー対策の強化・更新、バックアップシステムの構築などの対応策が考えられます。

また建設DXでは、AI活用が進んでいきますが、AIの判定ミスに気付かない場合は、完成した構造物に重大な欠陥が生じるリスクが新たに生じ得ます。この新たなリスクに対しては、活用事例のデータベース化を進めて、AIの活用ルールを改善していく対応が考えられます。

技術者倫理・持続性の観点からの要件・留意点としては、DXベンダーや導入企業の利益より国民生活の安全確保を優先とすること、災害廃棄物の3R推進やグリーンインフラによる復旧推進などが挙げられると思います。

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