受検申込書に技術士レベルの高等な業務経歴を書きたいけれど、自分は小さな業務しか経験していないので無理、そう悩んでいませんか。でも、小さな業務ほど技術士レベルの実務経験が見つけやすいなら、もう悩む必要はないですよね。
小さな業務でも科学技術のリスクコントロールは必要なはず
あなたが経験した業務は、多かれ少なかれ科学技術を使ったはずです。科学技術は、使い方によっては大事故につながります。たとえ小さな道路工事でも、欠陥工事が原因で死亡交通事故につながるリスクはあります。
人命に係るような重大なリスクを抱えてる業務の責任者なら、そのリスクをコントロールする責任があります。責任の重さに、仕事の大小とか会社の知名度は関係ありません。取り扱う技術の難易度も、技術の新旧も関係ないのです。
原子力利用をド素人に任せるわけにはいかいように、小さな道路工事もド素人に任せると取り返しのつかない結果になります。
小さな道路工事であっても、あなたのリスクコントロールによって、通行者の生命・健康が守られているなら、その業務経験は十分に技術士レベルの業務になり得ます。
技術士レベルの業務経験に気づいていないだけでは?
小さな業務であっても、技術的問題は必ずあったはずです。あなたは、それに気付いていないだけかもしれません。あなたがやってきた仕事は、簡単な仕事ばかりではなかったはずです。
マニュアル通りでは上手くいかないのでやり方を変えたこと、工期の制約が厳しくて苦労したこと、品質かコストかで悩んだことなど、いろいろあったと思います。
そして、あなたはその都度、問題を解決してきたのではないでしょうか。自分の知識と経験を駆使し、参考文献や類似事例を調べ、エンドユーザーのことを第一に考えて、あなたなりに最善の解決策を見出してきたのではないでしょうか。
技術士コンピテンシーとは、そのような技術的な問題を自ら解決する能力のことです。
「自分は普段、技術士レベルの高度な業務はやってない」
そう思っている人のほとんどは、技術士レベルの業務経験を持っているのに、それに気づいていないだけです。
その業務が技術士レベルに相当するかどうかは、試験官が判断することです。それなのに、試験を受ける前から技術士レベルではないと、自分で決めつけるのは極めてもったいないです。
小さな業務ほどコンピテンシーを発揮している理由
道路に埋まっている排水管を交換するような小さな工事なら、地質調査もほとんど行われませんよね。工事責任者は、緩い地盤で地下水が高いかもしれない、掘削面が崩れたら工期は守れるだろうか、予算は守れるだろうかなど、いろいろ心配事(リスク)が頭をよぎります。
大型工事なら事前に十分な調査が行われ、有識者によるリスク検討も事前に行われるでしょう。施工中にトラブルが発生しても、有識者に相談して解決できます。
しかし、小さな工事では大雑把な条件しか与えられず、工事に潜むリスクに対しては、担当者自身で対策を検討しなければなりません。施工中のトラブルも、自ら解決しなければならないはずです。
考えようによっては、小さな業務の担当者の方が、リスクコントロールの責任は大きく、自らのコンピテンシーを駆使して問題を解決した経験をたくさん持っていると言えます。
技術士コンピテンシーが必要な問題解決3パターン
技術士コンピテンシーを要する業務の問題解決パターンは、次の3パターンに分類されます。これらの分類は、技術士コンピテンシーの根拠になっている国際基準(IEA-PC)にプロフェショナルエンジニアの業務として規定されているものです。
コンピテンシーを要する問題解決パターン
① 要求事項がトレードオフの問題の解決
② マニュアルや参考例が無い問題の解決
③ 社会環境へ悪影響を及ぼす問題の解決
①の要求事項がトレードオフの問題は、どんな業務でも多かれ少なかれ直面しているはずです。トレードオフとは、一方を達成するために他方の犠牲にしなければならない関係のことです。よくあるのがコスト・品質・工期の関係です。トレードオフ問題を解決するには、相互関係の影響を考えながら最適バランスを取る必要があり、技術士コンピテンシーが絶対必要になります。
②のマニュアルや参考例が無い問題とは、適用する基準・マニュアル・参考事例が存在していなかったり、見つけられなかった問題のことです。これらが無くても業務が成功したのであれば、あなたのコンピテンシーをフル稼働して解決方法を考え出したことになります。たとえマニュアルがあったとしても、その適用性について一旦立ち止まって検討したのなら、それも②に該当します。
③の社会環境へ悪影響を及ぼす問題とは、業務過程で公衆の安全や自然環境に重大な影響をもたらす問題のことです。その業務の結果、人身事故や環境破壊が発生していないなら、あなたは有効なリスク対応を取ったということになり、③に該当します。技術士にとって公衆の安全確保や自然環境保全は最優先課題になるので、そのためのリスク対応には技術士レベルのコンピテンシーが必要になります。
経験業務の問題解決トーリーをパターン分けしてみよう
あなたがこれまで経験してきた業務は、それぞれ直面した問題も解決した経緯も異なるはずです。あなたが、どの経験業務を経歴票に挙げれば良いか悩んでいるなら、経験業務の問題解決ストーリーをざっくりで良いので、降り返ってみてください。そして、問題解決3パターンに当てはめてみてください。
もし、次のような3パターンに該当する問題解決ストーリが言えそうなら、その業務はコンピテンシーを発揮した技術士レベルの業務になり得るので、経歴票に挙げるべきです。
(1)トレードオフ問題の解決ストーリー例
- プレキャスト工法の採用すれば工期を短縮できるけど、製造や輸送コストが増加するので、コストと工期の両面から検討して工期短縮を優先した。
- 高品質な補修材料を使用するとコストは増加するけど、安価な材料を使うと耐久性が低下するので、品質とコストの面から検討して最適な補修材料を見つけた。
- 現場の安全対策を徹底すると工期が遅延するけど、工期短縮を優先すると作業の安全性が低下するので、安全と工期の両面から検討して両者のバランスを取った。
(2)解決手法が無い問題の解決ストーリー例
- 擁壁背後の土留め杭を残置すれば土圧が軽減できると考えたけど、土圧軽減効果を評価する方法が確立していなかったので、土圧公式から説明できる評価方法を考えた。
- 盛土擁壁をグラウンドアンカーで補強するのが有効と考えたけど、安定計算のマニュアルが無かったので、擁壁とアンカーの設計指針を組み合わせて安定計算を行った。
- 床掘り掘削は標準勾配の63°で設計されていたけど、現場の土質や地下水位状況から豪雨時の崩壊リスクが高いと判断して、1ランク緩い標準勾配45°を採用した。
(3)事故が発生する問題の解決ストーリー例
- 若手作業員の知識と経験不足から施工不良が起きるリスクが高いので、熟練者の配置を検討して、完成する構造物の安全性能を確保した。
- ブロック擁壁の復旧断面が大きくなり天端ガードレールの土中式基礎の安定が確保できないので、天端構造の工夫してガードーレールの安定を図った。
- 沢地形の盛土施工で標準機種による端部の転圧が不十分となるので、転圧方法の設計変更を発注者に提案して安全な盛土構築ができた。

