日本経済再生への最大のチャレンジとされる「働き方改革」。そのテーマから連想するキーワードを4つに絞り、その意味や課題を考えます。その上で、この4キーワードを使って建設分野における「働き方改革」を改めて説明してみます。

「労働人口減少」とは
人口減少、少子高齢化が進むことによって、現役世代の働き手が少なくなり、必要な労働力を確保できなくなります。
社会経済は、各産業が複雑に絡み合って成り立っているので、問題も複雑になっています。建設現場一つをとっても、現場作業員や資材の製造・運搬関連の労働者はもちろん、工事関係者の衣食住関連、エネルギーや情報関連まで多種多様な産業が関わってきます。
総務省の調査によれば、15歳~64歳の生産年齢人口は、2013年に7,901万人でしたが、2060年には4,418万人まで大幅に減少すると予測されています。加えて、インフラは今後ますます老朽化が進み、自然災害による脅威も年々高まっています。
社会経済基盤や暮らしの安全安心を守る建設分野において、労働人口減少問題は国の存続に関わる深刻な問題だと言えます。
「長時間労働改善」とは
建設業の年間労働時間は約2060時間、年間出勤日数は約250日です。これを全産業と比べると、労働時間で約330時間、出勤日数で約30日も多い状況です。
ザックリ言えば、建設業の労働者は、他の産業より1ヶ月分多く働いている計算になります。ちなみに、建設業の給料は全産業の約8割とも言われ、労働生産性の悪い産業ともいえます。
また、建設業は週休2日制をほとんど実現できていないのが実情です。加えて、残業時間も「36協定」で定める上限「月45時間、年360時間以内」の適用外となっています。働き方改革では、労働基準法を改正して36協定の時間外労働に罰則付き上限規制を設けますが、建設業は改正後も5年間は現行制度が適用され、5年後も災害対応は適用外となる模様です。ちなみに、建設コンサルタントはサービス業に分類されるので、適用されると思われます。
この長時間労働が改善されない限り、若者の建設業離れに歯止めはかからず、担い手不足の問題は解決されません。
「i-Construction」とは
i-Constructionとは、生産性が悪い建設産業において、ICT活用等により生産性を向上させ、3Kイメージの強い建設業を綺麗で安全、高賃金で休暇取得しやすい職業に変え、優秀な若者を継続的に確保しようとするものです。
そのために、施工時期の平準化、建設プロセスでのICT全面活用、コンクリート構造物のプレキャスト化などが進められており、関連するITソリューションはもちろん、建設分野の枠を超えたイノベーションも生まれています。
これまでの建設現場は、2次元図面を確認しながら多くの作業員や重機オペレーターが、休みなく働いていました。今後は、数人の技術者がスマホやタブレットを片手にデータ管理を行い、肉体労働や重機操作はAIが行うことになります。
i-Constructionは未だ始まったばかりですが、地域間、企業間における進捗度の格差拡大、ICTへの高依存による現場対応力の低下、データ一元化によるセキュリティ対策などの課題も見えはじめています。
<関連記事>テーマ「i-Construction」から連想する4つのキーワード
「ダイバーシティ」とは
ダイバーシティとは、労働力として多用な人材を活用することです。これまでの建設業は、男性労働者を前提とした雇用環境でした。しかし、それでは労働力不足は解消されないので、女性、外国人、高齢者、障害者などが安心して働ける職場環境を整備することで、労働力不足を補うものです。
女性が働きやすい環境としては、建設現場に女性専用トイレを設置したり、職場近くに保育施設を確保するなど、これまで女性が建設現場で働くことの障壁を取り除く必要があります。
また、外国人労働者の受け入れについては、東北復興や2020年東京オリンピック・パラリンピックに向けた建設需要増加に対し、国は外国人労働者の受け入れ制度を整備しました。
建設分野における外国人材の活用に係る緊急措置(国土交通省)
今後i-Constructionが進めば、ITリテラシーを持った人材への需要が高まり、建設産業でのダイバーシティは一層進むと思われます。
ダイバーシティの課題としては、現場条件への対応など、これまで熟練者のノウハウに頼っていた技術の伝承・教育が挙げられます。そのため、現場ノウハウを持った熟練技術者の活用、コンピテンシーのモデル化も進める必要があります。
4つのキーワードを用いた働き方改革の説明
インフラ整備を担う建設産業において、労働人口減少問題は国の存続に関わる深刻な問題です。しかし、建設産業は3Kや長時間労働などが改善されておらず、若者の就職の障壁となっています。建設産業における「働き方改革」の実現に向けては、「担い手確保」と「長時間労働の改善」という2つの課題を解決しなければなりません。
これらの解決策として、ICTの全面的活用などにより魅力ある産業への転換を図るi-Constructionが始まっており、また、女性、外国人などの多様な人材を活用するダイバーシティも進められています。一方で、i-Construction進捗度による進格差拡大、データの一元管理でのセキュリティ対策、ダイバーシティにおける熟練者ノウハウの取り込みなど、新たな課題も見えはじめています。

